古本屋の殴り書き

書評と雑文

二・二六事件関連書籍

二・二六事件

 ・二・二六事件関連書籍

従いまして、本書の「古典的意義」は認めますが、ビギナーの方には「二・二六事件」に就いて誠実な「検証」を行った、北博昭氏の『二・二六事件全検証』(2003・朝日新聞出版社)をお勧めしたいと考えます。
この本は、「二・二六事件」の切欠の一つともなった「相沢事件」の東京地検保管未公開判決書」を付録にしてある点でも、より「実証的」な名著で、価格も良心的(1200円)です。


次いで、「事件そのもの」に更なる興味が湧いた方は、何よりも、事件当事者の筆に依る、末松太平氏「私の昭和史・上・下」(中公文庫)、池田俊彦氏「生きている二・二六」(ちくま文庫・絶版)、大蔵栄一氏「二・二六事件への挽歌」(読売新聞社・絶版)を手に取ってご覧になると宜しいかと思います。
幸い、Amazonでは、上記「絶版」になった本も、「中古」で入手可能ですので、併せてご紹介する次第です。


留魂:「二・二六事件」の古典。然し乍ら、本書は、既に存在価値を失っています。

      

近衛文麿の周囲には有力な軍人がいなかった/『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎

『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄
『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫
『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子
『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫

 ・近衛文麿の周囲には有力な軍人がいなかった

『陸軍80年 明治建軍から解体まで』大谷敬二郎
『二・二六帝都兵乱 軍事的視点から全面的に見直す』藤井非三四

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 近衛の信頼していた宇垣一成についていえば、彼の政治手腕を近衛は高く評価しており、事実、宇垣もそれだけの実力をもってはいたが、すでに彼は非常時以前の人物で、いわゆる三月事件の傷あともあり、陸軍からは、ことごとにそっぽを向かれていた。昭和12年の宇垣内閣流産、昭和13年頃の宇垣外相に対する反発など、すべて反宇垣の根づよい作用である。
 石原莞爾、彼はたしかに軍の偉才であり、一派を率いてはいたが、昭和16年3月、東条によって追放された退役中将であり、いわゆる「東亜連盟」運動の中心ではあったが、軍におよぼす影響といったものは、皆無に近く、いたずらに当時の軍を罵詈讒謗(ばりざんぼう)していたにすぎなかった。
 また、酒井鎬次は近衛側近の一人として、近衛にはたいへん信用があり、その頭脳を高く買われ、近衛の顧問のような地位にあったが、これも昭和15年待命となった退役中将であった。戦争中召集されて参謀本部にあったが、召集軍人であったから、中央部を代表するものではなく、戦史を研究する一個の学究的存在でしかなかった。
 さて、このように見てくると、近衛に近い軍人といえば、そろいもそろって退役軍人で、しかも、それらは、大小の差はあったが、当時の軍部に対しては、不平と反感をもっていた人々であったことが注目される。いいかえれば、近衛は、現中央部に何がしかの不平と反感をもつ、いわゆる反主流の退役軍人によってとりかこまれていたということになる。近衛の対軍態度の素地は、こうした人々によってつちかわれ、また、これらの人々のもつ雰囲気の中で生まれたと見ることができるであろう。
 近衛は口をきわめて軍人の政治関与を非難したし、その軍の政治進出に憤っていた。しかし、彼の側近にいた軍人の多くは、政治関与のきけ者だった。たとえば、荒木大将のごときは、陸軍大臣当時、荒木総理大臣のニックネームをもらうほど、内政、外交などに非常時国策なるものを提唱し、軍部大臣の域を越えることはなだしいものがあったし、鈴木貞一は、若いときから、政治将校として終始した人で、その政治干与ないし政治陰謀は数かぎりない。石原莞爾もそれが国防担当者としての立場からではあったが、林内閣づくりの楽屋うらにあったり、板垣かつぎ出しに暗躍するなどの所業があった。
 このような政治的前科ものを擁していた近衛が、軍人の政治干与ないし軍部の政治進出を、きびしく非難していたことは、不思議なことである。


【『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎〈おおたに・けいじろう〉( 図書出版社、1971年/光人社NF文庫、2014年)】

 大谷敬二郎は元憲兵大佐である。調書の如き簡潔な文体が心地好い。怜悧な知性を感じさせる文章で日本人には珍しく客観性に富んでいるのが特徴である。

 日本の近代史を学べば学ぶほどわからなくなるのが二・二六事件近衛文麿の存在である。多分ここに日本社会が抱える矛盾が象徴的に現れているのだろう。

 早瀬利之著『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』を鵜呑みにすることができなかった私だが、大谷の指摘を読んで得心がいった。往々にして礼賛には人の眼を曇らせる働きがある。

 まだ読んでいる最中なのだが、「近衛文麿は赤の幻に翻弄された」という主張であり、その原因を軍関係の人脈の弱さに求めている。

 天皇陛下と国民の期待を担った英雄が、ほんのわずかな綻(ほころ)びから時局の判断を誤ったというのだ。国内左右の人材を登用し、様々な情報に通じ、高い識見の持ち主であっても時代の波に飲まれてしまうのだ。

 政治家に過剰な期待をすることは誤っているのだろう。そして政治に何かを望んだ瞬間から国民は無責任になってしまうのだ。

 日本はまたぞろ同じ歴史を繰り返すだろう。なぜなら大東亜戦争敗北について国民が共有する「答え」を見出していないためだ。

悪しきマウント癖/『世界のニュースを日本人は何も知らない』谷本真由美

 そして日本ほど治安がよい先進国もありません。
 日本ではどこかアパートやマンション、一軒家などを借りる際に治安を考慮する必要はないですが、ほかの国では場所も物件自体も安ければ安いほど安全性が低いということですから、死にたくなければ高い家賃を払ってそれなりの物件に住む必要があります。
 町中でジャングル用のナタであるマシェティで襲われることもないし、硫酸をかけられて強盗されることもない。子どもが学校から無事に帰ってくるか心配する必要もなければ、中学生が家にマシンガンを隠し持っていて特殊部隊が突入することもないのです。
 これらはつくりネタなどではなく、イギリスで実際に起きたことです。イギリス警察によれば、マシェティによる攻撃は2017年の2ヶ月間に928件も確認され、これを日割りにすると90分おきに発生したことになります。うち425件はロンドンです。
 ロンドン南部のクロイドンでは、13歳の女子中学生が敵対ギャングとの抗争に備えて家のクローゼットにM-16に似たセミオートのマシンガンを隠し持っていたことが発覚し、15名の特殊部隊が突入して回収する騒ぎがありました。
 日本では小学生がひとりで自転車に乗って塾に通えるくらい安全です。ほかの先進国では治安があまりにも悪いため、すべて親が車で送り迎えします。(中略)
 日本は家賃も激安で、東京から少し郊外に足を延ばせば4~5万円の物件もあります。都心部でも他の先進国首都に比べ、とにかく安い。ロンドンやパリ、ローマにはそんな廉価な物件はまずありません。
 たとえばロンドンのシティへの通勤で、ドアツードアで1時間以内の場所に20平米のワンルームのアパートを借りるとなると、家賃は15万円ほどします。同じような物件を購入するとなると、築80年で4000万円ほどです。郊外であっても、日本であれば誰も買わないような築60年の3寝室あるボロ家が5000万円ほどします。日本の都内近郊であればせいぜい5~600万円ほどの価値の物件です。
 イギリスでは安い物件イコール超治安が悪い場所なので、死を覚悟する必要があります。ですから、住居にそれなりのお金をかけるか、経済的に余裕がない人はシェアをする、あるいは都心部からより遠くに住むしか選択肢はないのです。


【『世界のニュースを日本人は何も知らない』谷本真由美〈たにもと・まゆみ〉(ワニブックスPLUS新書、2019年)】

 決して悪い本ではない。ただ、谷本には「悪しきマウント癖」があって読むに堪(た)えなかった。

 海外で仕事をしようと考えている人や留学希望者にはお勧めできる。実際に日本人女性が強姦~殺害された事件は海外で起こっている。日本の常識を拭い去らなければ、思わぬ犯罪の被害に遭うことだろう。

 谷本といえば忘れられないツイートがある。

 この一言に彼女のスタンスが露呈している。学術マウントは本書の中でも随所に出てくる。ヨーロッパの貴族主義に毒されているのではないか。

  

ミクロの世界

 ミクロの世界。

 これほど拡大できても、人類はいまだに原子を見ることができない。