・『知的生活の方法』渡部昇一
・『続 知的生活の方法』渡部昇一
・大村大次郎
・『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
・『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹
・taxと税の語源
・税を下げて衰亡した国はない
・現行の税金システムが抱える致命的な問題
・社会主義的エリートを政府へ送り込んだフェビアン派
・一律一割の税金で財政は回せる
・目次
・『対論「所得税一律革命」 領収書も、税務署も、脱税もなくなる』加藤寛、渡部昇一
・『封印の昭和史 [戦後五〇年]自虐の終焉』小室直樹、渡部昇一
・『新世紀への英知 われわれは、何を考え何をなすべきか』渡部昇一、谷沢永一、小室直樹
・『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん
約40年前、ハイエク先生の通訳をしていて、「おやっ?」と思ったのは、先生が「税率は、一割ぐらいでよい」と言われた時である。大きな政府より小さな政府がよいのはよくわかるが、そんなに税金を減らしてもいいのか、聞き間違えたのかと思ったが、やはり「一割」と先生はおっしゃった。
私は、長らくこの1割という数字にこだわっていた。ある時、特に名は秘すが当時の大蔵省(現財務省)主税局のトップにお会いする機会があったので、
「ハイエク先生は、一律に一割、10パーセントぐらいでいいと言われたのですが、いかがでしょうか」
と尋ねた。すると、その高官は言下(げんか)に、
「もし、一律に取らせて戴けるならば、10パーセントでなく7パーセントで結構です」
と答えた。日本の税金制度を司(つかさど)る人物が、「一律なら7パーセントで充分」と考えていたのである。このことは、大蔵省自体も累進課税が絶対だと思っているわけではない、ということを物語っていると思う。考えに考えたわけでもないし、あとで返事をくれたわけでもない。間髪(かんはつ)を入れず即答されたのである。【『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉(ワック、2012年/PHP研究所、1993年『歴史の鉄則 税金が国家の盛衰を決める』/PHP文庫、1996年/ワック文庫、2005年、改題改訂新版『税高くして国亡ぶ』/更に改題改訂したものが本書)】
本書の初版が1993年なのでハイエクの発言は1953年前後だろう。渡部の文章が正確さを欠いているためわかりにくいのだが、「長らく」との言葉を思えば、大蔵官僚の発言は1960~70年代だろう。つまり高度経済成長期である。
ひとつ断っておくと、渡部昇一はこのエピソードを「累進課税反対」の文脈で引用している。現在の国民負担率46.5%を思うと、政治家や官僚の暗愚さ、狡猾さに暗澹(あんたん)となる。少子高齢化は半世紀前からわかっていたことである(『恍惚の人』有吉佐和子)。老齢基礎年金等受給権者数は3283万人となっている(PDF:厚生労働省)。当然だが働いていない人々が多いことだろう。被保険者総数は6786万人で年金扶養比率は2.35となっている。つまり、2.35人で1人の老人を養う勘定である。社会保障だけでもこれだけの負担がある。
敗戦から1970年まではインフラ整備の時代である。その後バブル崩壊(1991-93年)を経てインフラ補修の時代となる。携帯電話やインターネット回線の普及はさほど景気を押し上げなかった。
一律一割と言うが法人税や固定資産税については触れていない。あやふやな話である。もしも所得税一割で財政は回せるとすれば、ハイエクは経済原理として示したのだろうし、大蔵官僚は当時の財政状況を鑑みて話したことと察する。可処分所得が36.5%増えれば内需も大きく拡大する。
しかしながら渡部の話がすっきりしないのは、高額所得者が年々減税され、中低所得者は増税されているにもかかわらず財政状況がよくなっていない現状の説明がつかない点である。
納税の最大の問題は会社に社員の申告を行わせていることで、こうした事務負担に対価が支払われていないことだ。会社員の場合、収入は丸裸で、一般的には年収に応じた控除額が経費と考えられているが、これを恩恵と感じる人は少ないだろう。国民全員が確定申告を行えば政治意識がガラリと変わる。経費についても株式会社並みの範囲で認めるべきだろう。交際費は個人事業主の場合上限がない。
財務省は税の徴収よりも、国民にカネを使ってもらう方途を考えるべきだ。そんな当たり前のことすらわかってないのだから、連中の目的は国力を落とすことなのかもしれない。