古本屋の殴り書き

書評と雑文

平凡な悟り/『「私」という夢から覚めて、わたしを生きる 非二元・悟りと癒やしをめぐるストーリー』中野真作

『無(最高の状態)』鈴木祐
『ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー』由佐美加子、天外伺朗
『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ
『二十一世紀の諸法無我 断片と統合 新しき超人たちへの福音』那智タケシ
『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース

 ・平凡な悟り

『癒しと目覚め Q&A』中野真作
『これのこと』ジョーイ・ロット
・『つかめないもの』ジョーン・トリフソン
・『オープン・シークレット』トニー・パーソンズ
『すでに目覚めている』ネイサン・ギル
『今、永遠であること』フランシス・ルシール
『プレゼンス 第1巻 安らぎと幸福の技術』ルパート・スパイラ

悟りとは
必読書リスト その五

 私は、今から28年前の23歳のとき、生きることの苦しみに悶々としている最中、特にそれを求めて探求していたわけではなかったのに、突然もう一つのリアリティに一瞬触れる体験をしました(スピリチュアルな分野では一瞥〈いちべつ〉体験、覚醒体験などと表現されています)。
 その体験のおかげで「自分は助かった」という思いが生まれた一方で、すぐにすっかり楽になったわけではなく、そこから人間としての自分を癒すプロセスが始まったのです。
 真のリアリティに気づくことは比較的カンタンです。しかし、その気づきをこの肉体として生きている一人の人間の人生に統合していくにはある程度の時間がかかります。そして、その統合のプロセスには、人間としての痛みや苦しみを多く抱えている人ほどさまざまな困難が待ち受けています。
 でもやがて、すべての体験が「そこ」に向かって自分を導いてくれていたことに気づきます。
 人生の中に無駄なことは何一つないのです。(はじめに)

【『「私」という夢から覚めて、わたしを生きる 非二元・悟りと癒やしをめぐるストーリー』中野真作〈なかの・しんさく〉(青山ライフ出版、2016年)】

 不遜ではあるが「平凡な人物の平凡な悟りだな」との印象を受けた。そう思った瞬間に悟りは私の近くに引き寄せられていた。そこに中野の誠実な人柄と丁寧な文章の真骨頂があるのだろう。

 かように私はあれを尊び、これを軽んじる悪癖がある。二元性の罠である。中野の平凡さが逆に私の考えを改めさせる。幼い頃から非凡であろうと努めてきた自分の生き方に疑問が湧いた。変わり者であることは特に誇るような要件ではない。平凡を忌避する性格に何かから逃避する秘密が隠されているのかもしれない。

「統合のプロセス」は銘記すべき言葉である。すなわち一瞥体験に執着すれば小さな悟りは深い迷いに転ずるのである。多くの宗教が争い合う姿を見れば、その程度のことは想像がつく。

 個人的には万人が悟ると考えている。ただ殆どの人は死の瞬間にそれが訪れる。「死ねば仏」という日本の文化は案外正しいと思う。つまり、死は悟れない人間のための慈悲深い関門なのだ。「死の瞬間に脳は永遠を体験する」。死は自我を解き放ち、魂を光へと変容する。