古本屋の殴り書き

書評と雑文

「気」という文化/『養生訓に学ぶ』立川昭二

『すらすら読める養生訓』立川昭二

 ・「身」の意味
 ・「気」という文化

・『養生訓貝原益軒松田道雄
・『養生訓・和俗童子訓貝原益軒:石川謙校訂
『静坐のすすめ』佐保田鶴治、佐藤幸治編著

身体革命
必読書リスト その四

「身」という日本語は外国語に翻訳しにくいが、それと同じように「気」という日本語も外国語に翻訳しにくい。「気」はいわば日本特有の「文化」であり、日本人のメンタリティといってもいい。益軒の『養生訓』を読むうえで、この「気」ということばはもっとも重要なキーワードといえる。
「身」と同じように、「気」のついた日本語も無数にある。身近なもんからいうと、「空気」「天気」「大気」「気象」「電気」、そして「気持ち」「気分」「病気」「元気」「気力」「陽気」「活気」「気心」「気質」「気風」「勇気」「気品」「人気」「色気」「気配」「やる気」「気晴らし」「気さく」……。日常的によく使われる言い方では「気をつけて」「気づく」「気がする」「気がある」「気が合う」「気にしない」「気が多い」「気が短い」「気が重い」「気に入る」「気を落とす」「気が強い」「気が散る」「気がきく」「気が変わる」などなど、それこそ「気が遠くなる」ほどたくさんある。
 このように気の入った熟語や慣用語がたくさんあるということは、日本人のメンタリティに気という考えが今も深く生きていることを物語る。


【『養生訓に学ぶ』立川昭二〈たつかわ・しょうじ〉(PHP新書、2001年)】

 先日紹介した甲野善紀〈こうの・よしのり〉の「殺気の話」がわかりやすい(『武術の新・人間学 温故知新の身体論』)。確かに翻訳するのが難しそうだ。強いていえば「feeling」の手前の感覚だろうか。

 気は上下動し、また流れるものである。しかしながら液体ではない。発散するが故に、やはり気体と似た性質といえそうだ。

『養生訓』では心を平静に保ち、気をなごやかにし、言葉少なく静かに過ごすことを勧める。元気という言葉も出てくる。無駄に騒いだり、はしゃいだりして気を減らしてはいけないと説く。すなわち、気が衰えた状態がストレスに苛まれた姿なのだろう。そこでもたげるのが「弱気」である。

 武士道は、いざという時に死ぬ覚悟ができる「気」を涵養(かんよう)したのだろう。現代人にはその覚悟がないので、折に触れて少しずつ殺されてゆく。

浩然の気を養う」という言葉はまだ死語になっていない。日本が再起できるかどうかは若者たちの気力で決まる。

電気を知る/『バーニング・ワイヤー』ジェフリー・ディーヴァー