古本屋の殴り書き

書評と雑文

息の文化/『呼吸入門』齋藤孝

 ・息の文化

『BREATH 呼吸の科学』ジェームズ・ネスター
トッド・ギトリン
『身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生』齋藤孝
『息の人間学 身体関係論2』齋藤孝
『釈尊の呼吸法 大安般守意経に学ぶ』村木弘昌
『肚 人間の重心』カールフリート・デュルクハイム

身体革命

 例えば、息がハアハアしている人を見て、「この人は焦(あせ)っている」とか、「心理的に追い込まれている」と判断する。息を読んで、その人の心理的状況をとらえているわけです。ここに「息」の特徴があります。
 つまり、心理、心の在り方、精神の在り方と息はセットだと、暗黙のうちに感じとっている。
 これをもっと体系的に――人間の心の在り方と、その呼吸の仕方との関係を考えたのがヨガです。日本の身体文化というのは大きな流れで見ると、やはりヨガ、インドの精神身体文化が中国を通って流れてきた、そうした流れを源流としています。その呼吸観は、連綿たる何千年という悠久(ゆうきゅう)の流れの中で培われてきたものです。
 腰が身体的なものであるのに対し、【息は、その身体と精神を結びつけるもの】です。息は、からだと心をつなぐ「道」です。
〈腰肚文化〉の衰退と共に、それを支えた〈息の文化〉もまた忘却されつつあります。千数百年にわたってずっと受け継がれてきた流れが、わずか戦後50年でパタリと途切れてしまった。このことが、昨今、社会のさまざまな面において悪影響を及ぼしています。
 かつて、日本人は強い呼吸力を持っていました。大人も子どもも、武士も職人も、生活の中で、息が〈技〉や〈芸〉になっていた。日本はさまざまな〈息の文化〉を持つ国だったのです。

【『呼吸入門』齋藤孝〈さいとう・たかし〉(角川出版社、2003年/角川文庫、2008年/『呼吸入門 心身を整える日本伝統の知恵』角川新書、2015年)】

 生きるとは「息する」ことだ。すなわち呼吸にその人の生きざまが現れる。具体的には気合や気魄(きはく)となって深い相槌や智慧の言葉を支えるのだ。

 行き詰まった時に人生の先達ともいうべき先輩に幾度となく相談してきた。「そうか」の一言だけで救われた思いになったことが何度もあった。私の悩みを肚(はら)で受け止めてくれたことが伝わってきた。

 基本的なことを書いておくと、力を入れる際は息を吐く。武術でいうところの隙(すき)とは、息を吸った瞬間に生まれるものだ。これは喧嘩でも議論でも一緒である。呼吸を制するものが場をコントロールするのである。