古本屋の殴り書き

書評と雑文

免疫系の役割/『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン

『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし

 ・生命体に指揮者はいない
 ・視覚情報は“解釈”される
 ・2枚の騙し絵
 ・非運動性活動熱産生(NEAT)を増やす
 ・ホルモンの多様な機能
 ・免疫系の役割
 ・アルツハイマー病の原因は不明
 ・睡眠中の覚醒と覚醒中の睡眠

必読書リスト その三

 侵入者から体を守るというのは、とにかく際限のない難題なので、免疫系はときどき間違って無実の細胞に攻撃をしかける。免疫細胞が来る日も来る日も行なっている点検の数を考えれば、エラー率はとても低い。それでも、わたしたちを苦しめる病気のかなりの割合が、自己免疫疾患という形で、自分自身を守るものによってもたらされているのはとても皮肉なことだ。たとえば、多発性硬化症や、狼瘡(ろうそう)、関節リウマチ、クローン病、その他多くの迷惑な病気。全体で約5パーセントの人がなんらかの自己免疫疾患にかかっていて――これほど多岐にわたる不快な病気としてはかなり高い割合だ――その数は、効果的な治療法を見つける間もなく急速に増え続けている。

【『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン:桐谷知未〈きりや・ともみ〉訳(新潮社、2021年新潮文庫、2024年)以下同】

 昨今の日本を取り巻く状況を思った時、私は「国家の免疫」について考えざるを得なかった。「侵入者」とは外国から日本に入り込んだ犯罪者や不法滞在者であろう。人数が多くなれば誤認逮捕や冤罪も少なからず出てくることだろう。

 自己免疫疾患は日本の伝統や文化を否定する左翼と考えていいだろう。政党であれば日本共産党、れいわ新選組社民党および立憲民主党の半分だ。更に朝日新聞毎日新聞、地方紙などの新聞社およびテレビ局。そして学者、大学教員、日教組など。出版社の代表は岩波書店。1960年代の学生運動を展開した団塊の世代(1947~49年生まれ)は800万人もおり、この世代が鬼籍に入れば少し風景が変わるかもしれない。

 分子レベルでの複雑さがあるとはいえ、免疫系のすべてはたったひとつの仕事に専念している。つまり、体内でそこにあってはならないものを見つけ、必要なら殺すこと。しかし、その過程は決して単純ではない。体内の多くのものは無害かむしろ有益なので、それを殺すのは無謀か、あるいはエネルギーと資源の無駄になる。そこで免疫系は、空港でベルトコンベヤーの上を流れるものを監視する警備員に似た働きをして、よこしまな意図を持っているものだけをとらえなくてはならない。

 チンパンジーの場合は群れのルールを破ったものはその場で撲殺される。なぜなら、群れの存続が脅かされるからだ。動物は本能でそれを知っているのだろう。

 国家でいえば警察機能だ。戦前の憲兵(および特高)は横暴であったことが知られているが明らかな自己免疫疾患である。戦後になると袋叩きや村八分にされた憲兵がいたのは当然で、不健康な状態から健康への揺り戻しと考えられる。

 文中に「警備員」とあるが、警備の基本は「不審人物を入れないこと」だ。昨今の外国人の不法滞在は日本の免疫の機能不全を示すもので、蝕まれた体は既に横たわり、起き上がる気力を失いつつあるように映る。

 記憶T細胞は、並外れて用心深い。わたしがおたふく風邪にかからないのは、体のどこかに記憶T細胞がいて、二度めの攻撃から60年以上も守ってくれているからだ。侵入者を見つけると、記憶T細胞はB細胞に指示して抗体と呼ばれるタンパク質をつくらせ、それが侵入してきた微生物を攻撃する。抗体が優れているのは、かつての侵入者が戻ってこようものなら、すぐさま気づいて撃退する点だ。だから、一度しかかからない病気がたくさんある。予防接種の核となるプロセスでもある。予防接種とはまさに、特定の病原体に対する有益な抗体をつくらせて、初めから病気にかからないようにする方法のことである。
 微生物は、免疫系をあざむくさまざまな方法を発達させてきた。たとえば、紛らわしい化学信号を発したり、害のない有効的な細菌に見せかけたりする。大腸菌サルモネラ菌など、いくつかの病原菌は、免疫系をだまして違う微生物を攻撃させることができる。世の中にヒト病原体はたくさんあり、それらの一生の大半は、わたしたちの中に入り込む新しい巧妙なわざを進化させることに捧げられている。驚異的なのは、ときどき病気になることではなく、それほど頻繁に病気にならないことだ。しかも免疫系は、侵襲された細胞を殺すだけでなく、自分の細胞が正常に働かなくなったとき、たとえばがん化したときなどにそれを殺す必要もある。
 炎症とは要するに、体が損傷から自分を守るための熱い戦いだ。傷害付近の血管が拡張して、その部位に多くの血液が流れるようにし、侵入者を撃退するための白血球を運んでくる。そのせいで部位が腫れて、周囲の神経が強く押され、圧痛が生じる。白血球は赤血球とは違って、ジャングルを探索する陸軍巡察隊のように、血管壁を通り抜けて周囲の組織へ到達できる。侵入者に遭遇するサイトカインという攻撃用の物質を発射し、そのせいで、体が感染症と戦っているときには熱っぽく感じたり具合が悪くなったりする。つまり、体調が悪化するのは感染症そのもののせいというより、体が自分を守ろうと働くからだ。傷口からにじみ出る膿(うみ)は、あなたを守るために命を捧げた白血球の死骸なのだ。
 炎症は微妙な仕事をしている。強すぎれば隣接する組織が破壊されて不必要な痛みを招くが、弱すぎれば感染症を止められない。不完全な炎症は、糖尿病からアルツハイマー病、心臓発作、脳卒中まで、ありとあらゆる種類の病気に関与している。

「自己」を規定しているのは脳ではなく免疫系/『免疫の意味論』多田富雄

 戦前と戦後の断絶が日本の免疫機能を破壊したことがよく理解できる。責任ある将校は自害し、若きエリートは特攻攻撃で海に消えた。「最もよき人々は帰ってこなかった」(『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル)。

 傷だらけとなった日本は、大正時代から侵入し、戦後になって息を吹き返した共産主義というウイルスに侵された。しかも、GHQが体を切り刻んで、骨まで抜いた後で。

 約80年に及ぶ病状を我々は克服することができるのだろうか? 戦後50年のタイミングで新しい歴史教科書をつくる会が現れた(1996年)。2年後には小林よしのり作『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』が刊行された。日本人で最も早く覚醒した三島由紀夫の遺言(果たし得てゐいない約束――私の中の二十五年)が日本国民に届かなかったことを思えば、時代の潮流は確実に変わりつつある。

 ネット上では「攘夷」(じょうい)の風が吹き始めたが「尊王」が弱い。何も私はいたずらに天皇を祭り立てよと言いたいわけではない。日本の伝統や、日本を成り立たせている原点を知らなければ、国民の願いは単なる欲望で終わってしまうことを懸念しているのだ。

 日本は「始めに天皇ありき」で、国はその後で形成された。天皇おはせばこそ、国民同士が殺戮(さつりく)し合う戦争もなく、奴隷も存在せず、体制を転覆する革命とも無縁であった。「発見の時代」(Age of Discovery/大航海時代)で白人(ヨーロッパ人)に対抗し得た有色人種は日本人だけだった。日本だけが植民地になることを免れた功績は豊臣秀吉に帰す(『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新)。

「なぜ、政治家や官僚、そして大企業が腐敗するのか? それは戦争がないからだ」と武田邦彦は言った。「戦争にはそうした時代の澱(よど)みを一掃する機能がある」とも。思わず膝を打った。革命にも同様の機能があるのだろう。日本に革命がなかった歴史は、やはり天皇陛下の偉大さを示す証左といえよう。

 天皇陛下が「腐敗を一掃せよ」と命じ、全国各地で二・二六事件みたいのが起こることを密かに夢想している。