・『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
・『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし
・生命体に指揮者はいない
・視覚情報は“解釈”される
・2枚の騙し絵
・非運動性活動熱産生(NEAT)を増やす
・ホルモンの多様な機能
・免疫系の役割
・アルツハイマー病の原因は不明
現在では、アルツハイマー病は、患者の脳にβアミロイドというタンパク質の断片が蓄積して始まることがわかっている。適切に働いているときのアミロイドがどんな役に立っているのかははっきりしないが、記憶の形成になんらかの役割を担っているようだ。どちらにしても、通常なら利用されたあとはきれいに片づけられ、その後は必要とされない。しかしアルツハイマー病患者では、完全には掃除されず、プラークと呼ばれる塊になって蓄積し、脳の正常な機能を停止させる。(中略)
ここまでは100年前から知られていたが、それ以上はほとんど何もかもが混迷している。困ったことに、アミロイドとタウの蓄積がなくても認知症になりうるし、認知症にならなくてもアミロイドとタウの蓄積が起こりうる。ある研究では、高齢者の約30パーセントは、かなりのβアミロイドの蓄積が見られても、認知低下の兆しはまったくないことがわかった。
もしかするとプラークとタングルは病気の原因ではなく、単なる“痕跡”なのかもしれない――病気そのものが置き去りにした残骸だ。つまり、アミロイドとタウがそこにあるのは、患者がそれをつくりすぎているせいなのか、あるいは単にきちんと片づけられないせいなのか、誰にもわからない。意見が一致しないので、研究者たちはふたつの陣営に分かれている。(中略)ひとつわかっていることがある。プラークとタングルはゆっくりと溜まっていき、その蓄積は認知症の兆候が明らかになるずっと前から始まるので、アルツハイマー病の治療の鍵は明らかに、本格的な破壊が始まる前に早くから蓄積に対処することにあるはずだ。今のところ、それを実行するための技術はない。アルツハイマー病を明確に診断することさえできない。病気を特定する唯一の確かな方法は、検死解剖だ――患者が亡くなったあとの。【『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン:桐谷知未〈きりや・ともみ〉訳(新潮社、2021年/新潮文庫、2024年)】
「βアミロイド」は原文通りなのか? 普通は「アミロイドβ」である。「アミロイド仮説」が否定されるようになったのは、ここ5~6年のことだと思う。
・『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン
・アルツハイマー病の老人斑説を否定!マウス実験で確認 — 大阪市立大学
医学も嘘が多い世界なので注意が必要だ。最新情報をフォローしている医師は少ない。古い情報を鵜呑みにしている者が殆どだ。医師国家試験に更新はない。不勉強なまま年をとってしまった医師と遭遇すれば、あなたは殺される可能性がある。
アルツハイマー病で死んだ患者の脳を調べたところアミロイド斑が見つかった
➡アルツハイマー病の原因はアミロイド斑だ
➡ところがどっこい、アミロイドは20年以上も前からできていた
という流れで否定された。ビル・ブライソンの記述は実に正確で、医療の限界をきちんと明かしている。これね、書籍でも間違ったままのが多いのよ。
「総計で、65歳超の全人口の3分の1は、なんらかの認知症になって死亡する」――しかも認知症の種類は100にも及ぶ。だが、よく考えてみよう。65年以上壊れることなく動き続ける機械は存在しない。厄介なのはアルツハイマー病の平均余命が8~10年という長きに渡ることだ。この期間の社会的コストが大きすぎるのだ。
第ニ十三章のエピグラフはこうだ。
「ほどほどに食べ、定期的に運動し、どちらにせよ死ぬ。 ――作者不明」
死ぬことを避けようと奮闘する人類の姿は滑稽でもある。仮に平均寿命が1000年になったとしても人々は長生きを望むのだろう。