・『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』清水ともみ
・『命がけの証言』清水ともみ、楊海英
・『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
・『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
・目次
注記 調査方法について、ウイグル族と漢族の名前について
プロローグ その暗黒郷を“状況”と呼ぶ
「あなたについて通報があった」。家を自由に出入りする監視員、入店や移動をすべて記録するIDスキャン。強制収容所行きにならずとも、新疆ウイグル自治区での生活は地獄だ。第1章 中国の新たな征服地
2017年の中国。史上もっとも高度な監視ネットワークを取材しようと、著者はカシュガルを訪れた。だが圧倒的に、中国政府のほうが自分を知っているという事実に直面する。第2章 国全体を監視装置に
テクノロジーを支配する者が、国を支配する。カイロまで逃げたウイグル人男性は証言した。「中国は、エジプト警察が得たウイグル人亡命者のあらゆる情報を要求できる」第3章 ウイグル出身の賢い少女
北京の一流大学に通い、外交官を夢見たメイセムの日常は、2014年から変わりはじめた。故郷カシュガルに「セーフ・シティー」が作られ、彼女には警察署への出頭命令が出る。第4章 中国テック企業の台頭
バイドゥ、アリババ、テンセント、レノボ、ファーウェイ。中国5大企業の幹部は、米マイクロソフトの研究所から生まれることになった。斬新な軍産複合体を中国政府は模索する。第5章 ディープ・ニューラル・ネットワーク
顔認証技術と音声認証技術。アメリカのAI企業がつぎつぎに中国企業と提携しはじめた。2015年までに、政府による徹底的な監視システム「スカイネット」は完成した。第6章 「中国を倒せ!」「共産党を倒せ!」
ウルムチで起きた暴動が契機だった。少数民族ゆえに孤独な大学生活を送るメイセムの心の拠り所は、ウイグル族を代表する学者イリハム・トフティの公開講座に参加することだ。第7章 習近平主席の“非対称”の戦略
ユーラシア全体に影響力を広げ、中国を“超大陸”に拡大すること。先進技術を重視する国家主席はこうも言う。「われわれ共産主義者は、人民戦争を闘うことに長けているはずだ」第8章 対テロ戦争のための諜報員
テロリストから中国を守るため、各国に配置される諜報員たち。ウイグル出身のユスフは刑務所で「協力するなら、母親を釈放しよう」と言われ、外交官用パスポートを与えられた。第9章 「政府はわたしたちを信用していない」
メイセムはトルコの大学院に進んだ。夏に一時帰国してはじめて、「外国に住む」自分が、家族の信用度ランキングに悪影響をおよぼすという事実を知る。第10章 AIと監視装置の融合
購買履歴やウェブ閲覧履歴を監視し、全国民をランク付けする。それを可能にしたのが2015年の国家安全法だった。政府は大盤振る舞いで、スタートアップ企業を支援する。第11章 このうえなく親切なガーさん
2016年、ふたたび帰国したメイセムは党幹部に睨まれる。居間にはカメラが設置され、家族全員が「健康診断」を受けることに。DNA採取のキットは、アメリカ製だった。第12章 すべてを見通す眼
新プログラム「一体化統合作戦プラットフォーム」が予測的取り締まりを開始した。容疑者や犯罪者候補についてプッシュ通知、警察と政府当局にさらなる捜査をうながしていく。第13章 収監、強制収容所へ
「大切なお話があります」。地元政府の庁舎に呼ばれたメイセムは、そのまま再教育センターに連れていかれた。さらに、特殊部隊員が警備する拘留センターに移送される。第14章 強制収容者たちの日常
部屋の四隅と中央に監視カメラ、床には動きを感知するセンサー。トイレもシャワーもAI監視室が管理する。被収容者たちは工場に派遣され、中国の労働力不足を補うことに。第15章 ビッグ・ブレイン
心臓発作を起こした老婦人をかばうメイセムに、看守はこう言い放った。「助けたら、頭をたたき割ってやる」。殺風景な部屋で、新たな尋問が始まる。「きみとわたしだけの会話だ」第16章 ここで死ぬかもしれない
メイセムは再教育センターに戻る。“状況”は急激に悪化していた。1日も早くウイグルを出なければ。ありとあらゆる機関に提出する、途方もない数の書類を急いで集めはじめる。第17章 心の牢獄
インド経由でトルコへ。脱出に成功したメイセムの心身を異変が襲った。ささやかな慰めは母親から届くテキスト・メッセージだったが、ある日――「送らないで。安全じゃない」第18章 新しい冷戦
国家監視システム構築の手助けをした中国テクノロジー企業。2018年7月以降、それらはアメリカを含む数十カ国の政府に敵対視されるようになる。貿易戦争は報復合戦へ。第19章 大いなる断絶
アメリカ政府や民間研究所が、ウイグル問題についての調査結果を発表しはじめた。名前が挙がった中国企業は制裁対象に。だが中国の技術とインフラ支援を望む国々も存在する。第20章 安全な場所など存在しない
トルコ国内のウイグル人も、もはや安全ではない。生活をなんとか立て直したメイセムは、新たな夢を抱く。米国で博士号を取得し、学者として生きていくのだ。エピローグ パノプティコンを止めろ
AIはすでにあらゆる場所に存在し、充分な規制と理解のないまま人々を監視したり誘導したりしている。「撤退」「中止」を発表する巨大テクノロジー企業が現われはじめた。謝辞
21世紀のAIゲットーが完成した。隔離するだけでは済ませない権力者の心理に潜むものは何か? なぜ監視する必要があるのか? ひと思いに殺戮しないのはどうしてか? 結局彼らは怯えているのだろう。いくら美辞麗句を並べ立てようと一党独裁政権が国民を幸せにすることはない。
富を生む源泉は奴隷の存在である。歴史上、奴隷が不在であったのは我が日本だけだ。西洋の家畜文明が奴隷を生んだ(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)。奴隷文化が人種差別を規定するのだ。
日本人もかつて中国人や朝鮮人を差別したことがあった。しかし、そうであっても相手を人間と異なる動物と認識したことはなかった。白人は奴隷を人間と見なさない。にも関わらず平然と強姦する。そうした西洋の異常性を東洋から撃たねばならない。