古本屋の殴り書き

書評と雑文

奥村章子の翻訳が悪い/『カルニヴィア1 禁忌』ジョナサン・ホルト

 リッチは毎晩、潟(ラグーナ)に出ていた。彼がときどきカニよりはるかに金になるものを手にするのを知っているのは、ほんの数人だけだった。誰かがこっそりボートでやって来て籠を沈めた場所を示すブイにくくりつけていった、青いビニールシートで覆(おお)われた包を引き上げているのを知っているのは。

【『カルニヴィア1 禁忌』ジョナサン・ホルト:奥村章子〈おくむら・あきこ〉訳(ハヤカワ・ミステリ、2013年/ハヤカワ文庫、2015年)】

 1ページ目のテキストである。後ろの文章の行方がわからなくなる。しかも、「青いビニールシート」=「カニより高価」である理由が示されておらず、バラン(弁当に入っている緑色のギザギザした仕切り)を食べてしまったような消化不良を起こす。

 3部作の長さを思えば、気になる悪文がまたぞろ出てくることだろう。意味不明な文章は何度も読み返す羽目となり、不明な理由を明らかにし、不明を罵る行為を強いられる。そんな時間がもったいないので読むのをやめた。老い先が短い私にとっては果断が欠かせない。