古本屋の殴り書き

書評と雑文

時は金なり/映画『TIME/タイム』(原題: In Time)アンドリュー・ニコル監督、脚本

 ・時は金なり

『パラダイス 人生の値段』ボリス・クンツ監督

 これは佳作である。エコノミストのエミン・ユルマズさんが推していたので見た。

 25歳になると余生のタイムリミットは1年となる。富裕層は永遠に生きられる。時間が通貨として機能する世界を描く。

 コーヒーの料金も時間で支払う。ローンの支払いからバス代に至るまで時間で支払われる。スラムでは1ヶ月以上の時間を持つ者は狙われる。腕のデジタル表示は緑色で、死ぬと黒くなる。時間監視局(タイムキーパー)は時間を押収し、身柄を拘束する。

 古めかしい工場や古めかしいクルマがどことなく『マトリックス』を思わせる。

 主人公の男はある富裕層を助ける。男は語った。「少数が不死でいるため、多くが死ぬ」と。

「なぜスラムでは、税金と物価が同時に上がる? 確実に人が死ぬようにだ。少数が百万年の命を得るために」
「もし僕に――
 長い時間があったら…
 ムダにはしない」

 彼は富者から116年39週間を譲り受けた。親友に時間を分け与え、それからカジノへ趣き、残り時間を1100年にまで伸ばした。

 富裕層の娘が言う。「“時”は誰にとっても苦痛よ。貧者には死、富者には倦怠」。

「みんな、どう生きているの?」
「睡眠を減らす」

 主人公は革命家であった。彼は富裕層から時間を奪い、貧者に分け与える。ここから映画はボニー&クライド(『俺たちに明日はない』)と化す。

「時間がたくさんあったら――
 本当に人に与える?」
「僕はいつも1日だけ。どれほど必要だ? 周りで人が死んでいくのに」

 この科白(せりふ)を聞くだけでも映画を見る価値がある。

「人は不死であってはならない。そのために誰か死ぬなら」

 左翼の安易な革命思想に共感はできないが、フェア(公正)の精神はアメリカの骨格を成すものだ。

 山の手を表す「ニューグリニッチ」という言葉が気になった。「ニューグリニッジ」とすべきではなかったか(Greenwichの発音記号と読み方: 英語の発音インフォ)。