古本屋の殴り書き

書評と雑文

「予言が自己成就しない」実例/『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』橘玲

『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会

 ・スピリチュアル=呪術的=無意識
 ・反社会的な人間は心拍数が低い
 ・「予言が自己成就しない」実例

 楽観性の効果は「予言の自己成就」で説明される。「虚構の状況設定によって新しい行動が呼び起こされ、その行動が当初の虚構の考えを現実のものとする」と説明されるが、ようするに「ひとは自分の見通しに合うような行動をする」ことだ。
 健康で長生きするという楽観的な見通しをもつひとは、運動や節制を心掛け、煙草を吸わず、健康的な生活をしようと思うだろう。こうした効果で、「健康で長生きする」という予言は自己成就する。
 とはいえ、楽観的な見通しがつねに好ましい結果をもたらすわけではない。
 ニューヨーク大学の心理学者ガブリエル・エッティンゲンは、新しいものを夢に思い描くだけで実現の可能性が高まるかどうかを確かめるために、成績でAをもらうことをイメージした学生(実験群)と、試験とは無関係なことを思い浮かべた学生(対照群)を比較してみた。すると、よい成績を「強く願った」学生は、常識とは逆に、なにも願わなかった対照群の学生よりも成績が悪かった。
 エッティンゲンは、それ以外にも「予言が自己成就しない」実例をたくさん見つけている。理想の就活に成功することを夢見ていると出願書類の数が減り、その結果、自然と内定をもらえる数も少なくなる。ダイエット後のほっそりした姿を「強く願った」女性たちは、ネガティブなイメージを思い浮かべた女性たちに比べて体重の減り方が10キロ(!)も少なかった。
 なぜこんなことになるかというと、ヒトの脳はフィクションと現実を見分けることが不得意で、夢の実現を強く願うと、脳はすでに望みのものを手に入れたと勘違いして、努力するかわりにリラックスしてしまうからのようだ。

【『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』橘玲〈たちばな・あきら〉(幻冬舎、2021年幻冬舎文庫、2023年)】

『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー

 予言の自己成就に関しては上記書評のリンクを辿ってもらいたい。

 実は、私たちの【脳は「現実」と「想像」を区別することができません】。
 いま、頭に思い描いているものが「想像」であろうと「現実」であろうと、同じ神経回路を使って処理され、各器官に指令が出されるのです。

【『手にとるようにNLPがわかる本』加藤聖龍〈かとう・せいりゅう〉(かんき出版、2009年)】

 そして人間の脳はバイアス装置なのだ(『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム)。

 橘玲は「予言が自己成就しない」実例を挙げているが、逆に「予言が自己成就する」実例を挙げることも可能だろう。つまり自分の脳がどちらを信じるか、あるいは選ぶかという問題なのだ。

 私の場合、性格的に「為せば成る」「虎と見て石に立つ矢のためしあり」(李広の故事)という考えが強いこともあって、予言の自己成就は何度も経験している。

 また、「籌(はかりごと)を帷幄(あいく)の中に運(めぐ)らし勝ちを千里の外に決す」(『史記』)という兵法の原則を思えば、勝敗は陣幕(帷幄)の中で既に決していると弁えるべきだ。

「心は工(たくみ)なる画師(えし)の如く種種の五陰を画く。一切世間の中に法として造らざること無し」(華厳経第十)。すなわち世界は心の影に過ぎない。

 本書でも見受けられるが、人の幸不幸をも脳内の化学物質で計るようになると、やがては薬物を目指す方向に社会が引きずられかねないことを懸念する。