古本屋の殴り書き

書評と雑文

「作者感覚」という妄想/『無力の道 アドヴァイタと12ステップから見た真実』ウェイン・リカーマン

 ・「作者感覚」という妄想

悟りとは

【自分の中に、自分が物事を起こしているという感覚、自分が物事の作者だという感覚を認識できるかどうか、確かめて下さい。】

【『無力の道 アドヴァイタと12ステップから見た真実』ウェイン・リカーマン:阿納仁益〈あのにます〉訳(ナチュラルスピリット、2020年)以下同】

 AA+非二元という変わり種だ。翻訳者名がデタラメで驚いた。

「アルコホーリクス・アノニマスAlcoholics Anonymous)は、1935年にアメリカ合衆国でビル・ウィルソン(ビル・W)とボブ・スミス(ボブ・S、Dr. ボブ)の出会いから始まり、世界に広がった飲酒問題を解決したいと願う相互援助(自助グループ)の集まりで、直訳すると『匿名のアルコール依存症者たち』の意味である。略して AA と呼ばれる」(Wikipedia)。

「作者感覚」という妄想を衝(つ)いた一言が鋭い。諸法無我とは自我の妄想性を説いたものである。「私」という感覚こそが妄想の最たるもので、記憶+反応+反復で成り立っている。第一段階で必要なのは自分(マインド)と気づきの違いを理解することだ。気づきが先験的であることがわかれば、心身が実は環境であると悟る。

 この自分の意図と成果の相互関係は「作者感覚」と、物事をコントロールする力があるという主張を煽ります。

「努力は報われる」というのがその典型だろう。様々な研究が明らかにしているが、社会的な成功者は「運がよかった」だけのケースが多い。「数々の失敗を乗り越えて不思議なドラマが生まれた」というのはストーリーテラーの想像力がでっち上げる物語に過ぎない。

 サーダナは「作者感覚」の鐘にひびを入れる手段ととなるという話を彼はしてくれました。

 サーダナとはヨーガの用語で、一般的には瞑想、マントラ、呼吸法などの修行を意味する。いずれも「静止」を志向している。つまり実際の動きを止めることで、作者感覚を弱める機能があるのだろう。

 覚者には行為がなくなる。無論、身体機能としての動きはあるわけだが、一切が自然の摂理と合致した行為となるため、風や波のような感覚になるらしい。すなわちそこに業(ごう)が積み重なる余地はない。

「作者感覚」こそが自我を創造する神の視座なのだろう。