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警視庁公安部、不利な実験データ除外し報告か 起訴取り消し事件

 軍事転用可能な装置を不正輸出したとして外為法違反に問われた化学機械製造会社「大川原化工機(おおかわらかこうき)」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件で、同社の噴霧乾燥器の温度実験を巡り、警視庁公安部が実験データを一部除外して経済産業省に報告していた疑いがあることが判明した。立件には、経産省から「輸出規制品に該当する」との見解を得る必要があったが、伏せたデータ分は輸出規制品の基準に達しておらず、公安部にとって不利な証拠だった。

 大川原化工機側が起こした国家賠償訴訟で、2023年12月の東京地裁判決は公安部と東京地検が捜査を尽くさなかったとして、東京都と国に計約1億6200万円の賠償を命じている(双方が控訴)。公安部がデータの一部を除外した疑いは、控訴審で新たな争点となる可能性がある。

 噴霧乾燥器は、液体を霧状にまいて付属のヒーターで熱風を送って粉末にする装置。経産省は省令で、分解しない状態で内部を殺菌することができる噴霧乾燥器については、生物化学テロに転用可能な性能を持つとして輸出規制の対象としている。

 公安部は18~19年、同社製品が殺菌要件を満たすかを確認する実験を複数回実施し、結果を経産省に提出した。経産省は、中国と韓国に輸出された同社製品が輸出規制品に該当すると公安部に回答。これを受け、同社社長ら3人は20年に逮捕・起訴されたが、地検は21年7月、起訴内容に疑義が生じたとして起訴取り消しを公表した。

 毎日新聞は、公安部が19年5月に実施した、韓国に輸出された噴霧乾燥器と同型機の温度実験の概要やデータが記載された警察の内部記録を入手した。公安部は「装置を空だきして内部の温度110度を2時間以上維持する」ことが可能であれば装置内部を殺菌でき、輸出規制品に該当すると独自に判断し、実験に着手していた。

 内部記録によると、実験では230~250度の熱風を装置内部に約5時間送り、3カ所の温度データを計測して変化をグラフにまとめていた。2カ所は条件を超えたものの、うち1カ所の「製品回収容器」と呼ばれる箇所は80度前後で推移し、条件をクリアできていなかった。

 一方、経産省に提出された公安部の実験結果報告書には、条件を超えた2カ所のみのデータが記載され、条件の未達箇所はデータの記載がなかった。実験の様子を収めた写真も未達箇所は含まれていなかった。

 ある捜査関係者は取材に「都合が悪いデータが意図的に削除された」と公安部による隠蔽(いんぺい)があったとする見解を示した。

 捜査を指揮した当時の公安部幹部は国賠訴訟の証人尋問で、この実験で3カ所の温度を測ったことは認めた。ただ、製品回収容器の上の部分に、仕切りを取り付けることもできるとして、未達箇所は「装置内部」ではなく「装置外部」だと主張。「参考に測っただけだ」と証言している。

 不利なデータを隠蔽したのかとの質問に対し、警視庁は「係争中につき、お答えを差し控えさせていただきます」とコメントした。【遠藤浩二

毎日新聞 2024/2/14 05:00