古本屋の殴り書き

書評と雑文

プロセスとは形を変えた病苦か/『クリシュナムルティの神秘体験』J・クリシュナムルティ

『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 1 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 3 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 4 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ

 ・クリシュナムルティの悟りと諸法実相
 ・プロセスとは形を変えた病苦か

『クリシュナムルティの日記』J・クリシュナムルティ

ジドゥ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti)著作リスト
悟りとは
必読書リスト その5

29日(※1961年6月)

 激しい痛みの圧迫と締めつけがある。それはまるで、内部の奥深い所で手術が行なわれているかのようである。それは、どれほどかすかにであろうとも、人自身の意志の力によってもたらされたものでは【ない】。人は意図的にしばらくの間、その内奥へと入り込んでみた。人はそれを引き起こそうとしてみた。独りでいる時やまた別の時にもさまざまな外的な状況を引き起こそうとしてみた。だが何も起こらない。これらは最近のことではない。

【『クリシュナムルティの神秘体験』J・クリシュナムルティおおえまさのり監訳、中田周作〈なかた・しゅうさく〉訳(めるくまーる、1985年)】

 クリシュナムルティは28歳の時に啓示を得る(1922年)。それ以降、身体的苦痛に苛まれる状態が続く。これを彼は「プロセス」と呼んだ。本書は彼が自ら突然ペンを執って書かれた手記だが、唐突に始まり唐突に終わっている。プロセスと至福が織り成す精神の地平は不思議と名づける他ないもので、私は本書を呼んで初めて涅槃・法悦・解脱・三昧・寂静に触れた気がした。

 プロセスは眠りながら叫び声を上げるほど強烈なもので、苦楽の往来にただただ圧倒される。

 テキスト中の「人」とはクリシュナムルティ本人を指す。完全に離れた位置から自分を見つめているのだ。

 私は何となく彼が病苦・老苦を【味わっている】ように感じられた。苦を見つめなければ楽は開けない。本書で展開される苦楽の往来は生死(しょうじ)そのものを瞬間的に行き来しているようにすら見える。

 ブッダはかような苦痛について何も述べていない。

 尚、28歳の時に訪れた変容については、メアリー・ルティエンス著『クリシュナムルティ・目覚めの時代』に詳細が書かれている。