・トインビーの誤り
・茂木誠
一方、トインビーは、日本の天皇が朝鮮王などとは異なり、中国皇帝に対抗した存在であったという歴史的事実には一切触れていません。
また、ハンチントンの言う神道の存在も、日本文明の独自性を語る上で、欠かせない要素です。天皇家の祖神である太陽神・天照大神(アマテラスオオミカミ)をはじめとする自然神を日本人は信仰し、神々を祀るために神社を各地に建立しました。これが神道です。
原初時代、日本人は自然現象や自然物の中に人知を超える威力、呪力、神聖さを感じ、その対象を神と予備、畏怖し崇拝しました。このような自然崇拝から神道は成立してきたと考えられています。当時、社殿はなく、神聖とみられる岩場や森、山などを祀りの場としました。神を祀る社殿が建てられるようになるのは、仏教寺院が本格的に建造されはじめる飛鳥時代以降のことです。
【『民族と文明で読み解く 大アジア史』宇山卓栄〈うやま・たくえい〉(講談社+α新書、2022年)】
アーノルド・J・トインビーは代表作『歴史の研究』第12巻(最終巻)の「再考察」で、独立文明と衛星文明を分け、日本を衛星文明に位置づけた。
トインビーは「20世紀を代表する歴史学者」ではあるが、「1960年代になると、彼の大作は主流の歴史家の間では人気がなくなった」(Wikipedia)。
一方、サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』(1996年)は21世紀に入っても尚、輝きを失っていない。日本を単独の文明として扱ったのも慧眼で、日本人の多くが目から鱗が落ちる思いがした。
トインビーは名うての親中派である。中国に目を奪われるあまり日本を軽視したことは十分あり得る。猿も木から落ちる。トインビーの史観にも盲点があったというべきだろう。
尚、宇山卓栄に関しては茂木誠との対談動画を見て落胆したことを付け加えておく。著作の文章はこなれているのだが、茂木本から受けるほどの思考の鮮やかさが感じられない。