古本屋の殴り書き

書評と雑文

目次/『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』柿埜真吾

『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

 ・目次
 ・斎藤幸平著『人新世の「資本論」』を一刀両断

『アイデア資本主義 文化人類学者が読み解く資本主義のフロンティア』大川内直子

必読書リスト その二

序章 脱成長というおとぎ話
    資本主義の死?
    データは楽観主義を支持する
    気候変動の被害は資本主義の下での経済成長で激減
    民主主義と社会主義は両立不可能
    脱成長も社会主義も反動思想である


第1章 経済成長の奇跡
    経済成長という革命的事件
    当たらなかったマルサスの悲観論
    技術だけでは説明できない産業革命の奇跡
    経済成長をもたらした資本主義の発見


第2章 前近代の閉じた社会の道徳
    閉じた社会のゼロサムゲーム的発想
    前近代はずっと脱成長コミュニズムだった


第3章 なぜ資本主義は自由と豊かさをもたらすのか
    資本主義はプラスサムゲーム
    開かれた文明社会のルールは資本主義
    比較優位の原理
    貨幣という偉大な発明
    貨幣は諸悪の根源か?
    労働力の商品化は歓迎すべきことである
    アイデアの自由市場


第4章 社会主義は反動思想
    常識と算数の初歩
    反動思想としての社会主義
    外れた預言者マルクス
    植民地も経済成長には必要ない
    非科学的社会主義


第5章 資本主義の完全勝利に終わった20世紀の体制間競争
    キッチン論争
    ソ連経済の“奇跡”の実態
    資本主義の模倣にすぎなかったソ連経済


第6章 理想社会建設の末路としてのソ連
    伝説の東独車トラバント
    爆発するソ連のテレビ
   「欲しがりません勝つまでは」の生活が永久に続く共産主義
    大衆消費社会を敵視する共産主義イデオロギー
    ファッションも統制する共産主義
    ソ連の環境破壊
    20世紀の共産主義の遺産は健在


第7章 新しい隷従への道――『人新世の「資本論」』批判
    20世紀の体制論争の顛末
    装いを新たにした共産主義
    明確なビジョンを示せない社会主義者たち
    共産主義は環境にやさしいのか?
    資本主義はゼロサムゲームではない
    環境問題は外部性の問題である
    根拠の乏しい温暖化終末論
    現代文明を当前視する脱成長論のいい加減さ
    脱成長を唱えるなら社会保障大幅カットが論理的
    脱成長社会の悪夢
    競争的自由市場はマイノリティーを守る
    国際紛争を激化させる脱成長
    結局は全体主義社会になる脱成長コミュニズム
    文献的な脱成長コミュニズムの幻想
   「科学的」社会主義の下での学問の自由の終焉
    脱成長コミュニズムの下の自由
    実際は誰も望まない共産主義
    脱成長コミュニズムはいつか来た道
    もっと資本主義を!


おわりに
参考文献


【『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』柿埜真吾〈かきの・しんご〉(PHP新書、2021年)】

 柿埜は1987年生まれだから斎藤幸平と同世代である。新進気鋭の経済学者だ。岩田規久男に師事している。

 まず文章が整然としている。裏づけとなるデータもしっかりしていて隙(すき)がない。決定的なのは仮面を付け替えてあの手この手でレトリックを繰り出す左翼を軽く一蹴しているところだ。ジャブだけでノックアウトしたような印象すら受けた。

 斎藤の『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020年)は以前から気になっていた。今日現在でamazonの評価は4246人で星四つである。凄い。ネット上でも各所で話題となっていた。しかし、である。表紙を見て読む気が失せた。それも完全に。

 左翼の重鎮だらけである。特に私は白井聡に嫌悪感を抱いていたので「あ、左翼本ね」と判断した。しかも小首を傾(かし)げた顔が高橋源一郎そっくりである。左翼はなぜか丸眼鏡を好む。

「レッドからグリーンへ」(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)とカメレオンのように体色変化した左翼勢は、環境問題を資本主義攻撃の材料とした。そして男女平等(夫婦別姓女系天皇容認)、LGBTなどと共に主張されるようになったのが「脱成長」というキーワードである。

 柿埜は、斎藤幸平、白井聡池上彰佐藤優、水野和夫ら反資本主義者を真っ向から批判しているが、左翼のような人格攻撃がないため後味はカラリとしている。文句なしにオススメできる一書である。