古本屋の殴り書き

書評と雑文

自爆テロの兆候リスト/『葬られた勲章』リー・チャイルド

『キリング・フロアー』リー・チャイルド
『反撃』リー・チャイルド
『警鐘』リー・チャイルド
・『宿敵』リー・チャイルド
『前夜』リー・チャイルド
・『アウトロー』リー・チャイルド
・『奪還』リー・チャイルド

 ・自爆テロの兆候リスト

・『61時間』リー・チャイルド
・『最重要容疑者』リー・チャイルド
・『ネバー・ゴー・バック』リー・チャイルド
・『パーソナル』リー・チャイルド
・『ミッドナイト・ライン』リー・チャイルド

 自爆テロリストは見分けやすい。目につくしるしがいくつもある。何せ本人は緊張している。だれだって自爆するのははじめてなのだから。
 イスラエルの防諜(ぼうちょう)機関が自爆テロ対策をまとめ、何に注目すべきかを教えている。現実観察と心理分析に基づき、兆候となる行動をリストにしたということだ。


【『葬られた勲章』リー・チャイルド:青木創〈あおき・はじめ〉訳(講談社文庫、2020年/原書、2009年)以下同】

 リー・チャイルドは日本でも人気の高い作家だが意外なことに半分ほどしか翻訳されていないデイヴィッド・マレルの作品が途絶え、ロバート・ラドラムロバート・B・パーカー亡き後、海外ミステリの大御所はリー・チャイルドを措(お)いて他にない。

 冒頭の一節だがリー・チャイルドの特徴がよく表れている。「モサド」と書かなかったのは、アメリカ人の知的水準に配慮したものか。

 日本でもムスリム人口が増加しており、川口市ではクルド人が徒党を組んで迷惑行為に及んでいることがツイッター上で話題になっている。備えあれば憂いなしである。自爆テロの兆候リストを紹介しよう。

 疑わしい相手が男なら、リストは12項目になる。女なら11項目だ。ちがいは、ひげを剃(そ)ったばかりという項目があるかどうか。男の自爆テロリストは顎ひげを剃る。そうすれば周囲に溶けこみやすくなる。怪しまれにくくなる。結果として顔の下半分の肌色が薄くなる。しばらく日光にさらされていなかったために。

 2番目――ロボットめいた歩き方。(中略)自爆テロリストがロボットめいた歩き方をするのは、もうじき殉教できると思って恍惚(こうこつ)としているからではなく、20キロ近くもの慣れない重さを運び、粗雑なショルダーストラップが肩に食いこんでいるからであり、さらには麻薬をやっているからだ。殉教の魅力にも限度がある。ほとんどの自爆テロリストは脅されただまされやすい人間であり、半固形状の生アヘンを歯茎と頬のあいだにはさんでいる。

 3番目から6番目までは、いろいろな形で現れる精神状態に注目している――苛立(いらだ)ち、発汗、チック、神経質な態度だ。もっとも、わたしに言わせるなら、発汗は緊張だけでなく、身体(からだ)にこもった熱によっても引き起こされる。つまり、場ちがいな服装とダイナマイトによって。

 それが7番目につながる――呼吸だ。
 女は一定の浅く小刻みな息遣いをしている。

 8番目――自爆テロリストは行動を起こす直前、前方に視線を固定する。理由はだれにもわからないが、映像による証拠も生存者の証言もこの点では完全に一致している。自爆テロリストはまっすぐ前を見据える。覚悟が中途半端で恐怖に苛(さいな)まれているのかもしれない。

 9番目――祈りのつぶやき。現在までに知られている自爆テロリストはどれも宗教によって駆り立てられ、動機を与えられ、正当化され、監督されている。その宗教はもっぱらイスラム教であり、イスラム教徒は公共の場で祈るのに慣れている。生存者の証言によれば、長い一定の文句が延々と繰り返され、声は聞きとりにくいが、唇が動くのは見てとれる。

 10番目――大きなバッグ。
 古くなっていないかぎり、ダイナマイトは安定した爆薬だ。不意に爆発することはない。起爆するには雷管が要る。雷管は電源とスイッチにコードでつながれている。(中略)確実に起爆するには本格的な懐中電灯用に売られているスープ缶大の大きな角型電池が好ましい。これはポケットにしまうには大きすぎるし、重すぎるので、バッグにしまうことになる。電技はバッグの底に入れ、そこからコードをすいっちにつなぎ、バッグの裏の目立たない隙間から出して、場ちがいな服の裾の下へ這(は)わせる。

 11番目――バッグの中に入れた両手。
 20年前、この11番目は追加されたばかりだった。それまではリストは10番目で終わっていた。しかし、物事は発展する。作用と反作用によって。イスラエルの治安部隊と一部の勇敢な一般人は新しい戦術を取り入れた。疑わしい相手が行動を起こしても、逃げない。逃げてもむだだからだ。破片より速くは走れない。その代わり、一か八か、相手に抱きつく。その両腕を体の脇に押さえこみ、ボタンに手を伸ばせなくする。この方法によっていくつかの自爆テロが防がれた。多くの人命が救われた。けれども、自爆テロリストも学習した。いまでは、両手の親指をずっとボタンの上において、抱きつかれても問題ないようにしろと教わっている。ボタンはバッグの中の、電池のそばにある。だから両手をバッグの中に入れる。

 ジャック・リーチャーは何気なく女性に近づき、静かな説得を試みる。だが、女性は思わぬ行動に走る。これが本書の謎として物語が始まる。

 自爆しそうなテロリストを見つけたらどうすればよいか? まずは距離を置くことだろう。できるだけ遠くへ逃げるのが最も賢い手だ。それができなければ、背後から両腕を取るか、正面から昏倒するほどの打撃を与えるしかない。掌底で鼻を強打するか、拳で喉を突くのがいいだろう。もちろん一緒に死ぬ覚悟が必要だ。

 インターネットがイスラム教の原理主義を促進していると飯山陽〈いいやま・あかり〉が指摘している(『イスラム教の論理』)。西洋の価値観と妥協する穏健派法学者の嘘がバレてしまったのだ。イスラム教の絶対性はキリスト教を凌駕しており、軽々しく理解し合えるなどと思うのは危険極まりない。

 今年の5月、大分県日出町(ひじまち)でムスリムの土葬墓地問題が地元住民側と正式に合意したことが報じられた。既に埼玉県本庄市山梨県甲州市ムスリム用の土葬墓地があるようだ。蟻の一穴となることを私は恐れる。