古本屋の殴り書き

書評と雑文

眼が悪い人に福音/『アイ・ボディ 脳と体にはたらく目の使い方』ピーター・グルンワルド

『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス

 ・眼が悪い人に福音

身体革命

 このように自分で(※兵役免除のために)視力を悪くできたのだから、もしかしたら自分で視力を良くする方法があるのではないか? 何年かあとに私はそう思い、どうすればいいかあれこれ調べた結果、それが〈可能〉であるということを知りました。ベイツ・メソッド、ライヒ療法、ブレイン・ジム活動のそれぞれの原理を組み合わせた方法を私に教えてくださった故ジャネット・グッドリッチ博士には感謝するばかりです。彼女との訓練によって、私はたった18カ月でメガネの処方箋から解放されました。そしてその訓練を通じ、近視と腰痛、乱視と吃音との関連に気づきました。
 メガネから解放されたということだけで非常に大きな解放感に浸ることができましたが、それは始まりにすぎませんでした。1992年のある日、私は自分の角膜を体の一部として意識できるようになり、角膜に感覚があることも意識できるようになったのです。自分自身で角膜を緊張させたり弛緩させたりすることができるようになり、角膜の緊張・弛緩に胸部が反応していることにも気づきました。角膜を緊張させると胸は緊張しへこみます。そして角膜を弛緩させることを思うと、上半身がまっすぐに長くなりはじめ、著しく呼吸がしやすくなったのです。(中略)
 その何年かのあいだに私は、視覚システムに人体の縮図があるということに気づいたのです。私はこれを「アイボディ・パターン」と名づけました。目そのものは、脳の対応するそれぞれの組織とつながっています。また視覚システムは、目とその周りの神経構造を含み、人間の自律神経組織(爬虫類の脳)や感情(大脳辺縁系)、考えや理性(新皮質)をつかさどる部分ともつながっているのです。

【『アイ・ボディ 脳と体にはたらく目の使い方』ピーター・グルンワルド:片桐〈かたぎり〉ユズル訳(誠信書房、2008年/増補改訂版、2020年)】

 横書きなので最後まで読んでいない。少し前に読んだバーバラ・コナブル、ウィリアム・コナブル著『アレクサンダー・テクニークの学び方 体の地図作り』と同じ誠信書房である。今後、誠信書房の本は避けるようにしたい。漢字は縦書きの文字であり、横書きにすると香りが失われる。眼孔が横に切れ長となっているため、一般的には横書きの方が読みやすいと考えられているが見当違いも甚だしい。縦書きで右から左方向に読むのと、横書きで上から下方向へ読むのとでは、囲碁と将棋ほどの違いがある。本来であれば日本のネット空間も縦書きにするべきだというのが私の主張だ。

 アレクサンダー・テクニークには興味があるのだが良書が少ない。本書も訳が悪い。個人的にはフェルデンクライス・メソッドと双璧を成すヨーロッパの身体操作であると考える。しかしながら昨今は完全に売り物になった感がある。アレクサンダー・テクニークの教師養成講座は1学期の料金が35万2000円となっている。多分、「技術を教えて支払ったカネを自分で取り戻せ」ということなのだろう。資本主義経済においては全てが売り物にされる。悟りでさえも。

 アレクサンダーやフェルデンクライスは自分で技法を見つけた。つまり悟ったのだ。どれほど普遍的で汎用性が高かったとしても、依存すれば体を見失う。飽くまでもヒントとして活用するのが正しい。自分自身のテクニークやメソッドを開発する姿勢を欠いてはなるまい。

 本書は眼が悪い人にとっての福音である。視力がよくても周囲が見えていない人は多い。あるいは注意と集中のバランスが悪い人もいる。狩猟や採集をしなくなった現代人の眼は明らかに衰えていることだろう。ヒトの眼は獲物を見つけるために進化してきたのだから。

 更に「心の眼」というものがある。自身の内部をも見つめることができる能力だ。

 広く眼科医が本書を活用することを望む。