古本屋の殴り書き

書評と雑文

味噌作りの必読書/『誰でもできる手づくり味噌』永田十蔵

『味噌をまいにち使って健康になる』渡邊敦光
『毎日食べたい 5倍麹みそ』松田敦子

 ・味噌作りの必読書

『体質と食物 健康への道』 秋月辰一郎

 みそを手づくりすれば、誰でも極上のみそがつくれる。麹の種類や塩分の違いによって味も色合いもさまざまだが、その味わいには絶対の太鼓判を押せる。

【『誰でもできる手づくり味噌』永田十蔵〈ながた・じゅうぞう〉(農山漁村文化協会、2020年)以下同】

 5倍麹みそで味噌作りに開眼した私は本気で味噌を作ろうと思い立った。が、やめた(笑)。素人が作った味噌を販売するのが難しいと知ったためだ。どうせ作るのなら大量に作って余った分を売ろうという魂胆だった。もう一つの理由は必要な道具の入手が面倒だった。面倒というよりは、これ以上物を増やしたくなかった。最低でも味噌桶とミートチョッパー(手動ミンサー)は欠かせない。そして最大の理由は時間が掛かることだった。味噌が出来上がるまでに半年ほど要する。そして、もちろん失敗する可能性だってあるのだ。我が家は湿気が多いこともあってカビが心配だった。

 正直に書いておくが、燃え立つ味噌への思いを留(とど)まらせるのにあらん限りの忍耐力を要した。私の中にはもう小銭程度の忍耐力しか残ってないよ。

 永田十蔵はもともと麹屋を営んでいた。すなわち発酵のプロといってよい。

 みそは人から人へ、家から家へ、そして地域から地域へ、つくり伝えられてきた。伝えられてきたものには、それなりの価値があるものだが、「伝えられてきたものだから大事にしよう」というのでは意味がない。形だけのものなら、それはいずれ亡ぶ。
 みその本当の「姿」をしっかりと理解すること、そしてみそづくりを自ら実践すること、それによってみその真価が了解されるのである。
 本書は、正しい食を冀求(ききゅう)して、自らみそをつくろうとする人のためにある。
 本書を手にした同好の諸氏に自然の恵みが多からんことを切に願うものである。

 内容もさることながら文章がよい。

 みそは、タンパク質をはじめ、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分、あるいは多くのビタミン類など、豊富な栄養成分をもつ。日本人の食生活は、炭水化物が中心であったが、そこで欠ける部分をみそが補っていた。だから、みそは古くから日本の食文化のなかで重要な位置を占めてきた。
 近年になって、人の身体によいはたらきをする「機能性」が科学的に解明されるようにあって、みそが改めて注目されるようになった。
 ひと昔前までは、みそは高血圧の原因だといわれて目の仇(かたき/ママ)にされた。今では、血圧降下作用があるとされている。表2をみると、みそには多くの機能が秘められていることに驚かされる。
 みそは、栄養価と機能性の両面から日本人の食生活を支えてきた。

 大豆は栄養価も高いが毒性も強い(大豆毒)。発酵とは毒を和(やわ)らげる作業なのだろう。

 味噌が一般的に食されるようになったのは鎌倉時代からのこと。やがて室町時代に開花する。日本の伝統食である大豆だが現在自給率は7%しかない(農林水産省)。ひょんなきっかけでインフレに抑えが効かなくなれば、味噌・醤油・納豆が日本の食卓から消えることもあり得る。

 その内、近所で有志と融資を募って味噌作りは行おうと思う。