古本屋の殴り書き

書評と雑文

長くて混乱する文章/『怒り』吉田修一

 犯行現場となった尾木幸則〈おぎ・ゆきのり〉宅は八王子郊外の新興住宅地「けやきの丘」に建つ一戸建てで、南側に日を遮る障害物がなく、夫婦共働きのため一日中閉め切られていたはずの室内は、犯行が行われた午後6時半ごろには40度近くになっていたはずだ。

【『怒り』吉田修一〈よしだ・しゅういち〉(中央公論社、2014年/中公文庫、2016年)】

 ハードカバーが1111円と廉価で、2年後に文庫化されたところを見ると、たぶん人気作家なのだろう。映画化もされたようだ。

 amazonレビューの評価も高かったので読んでみたが、1ページ目で挫けた。

 まず、「八王子郊外」という言葉に違和感を抱いた。そもそも八王子が東京の郊外に位置しており、「新興住宅地」が市の中心部にないのは当たり前だ。

「南側に日を遮る障害物がなく」も読み手を混乱させる文章だ。「南向きのベランダ」とすれば十分だろう。文章の行方が「なく」の一言で混乱している。

 私の余生は限られている。とてもこんな文章に付き合っている時間はない。