・全体的に文章がおかしい
世界の宗教がいかに多様であるとしても、宗教に関して確実なことがひとつある。これまでに知られているかぎり、人間以外の動物には宗教が存在しないのに対し、すべての人間社会に宗教が存在していることである。いいかえるなら、宗教とはその形態においては多様だが、その存在は普遍的だということだ。
【『ホモ・サピエンスの宗教史 宗教は人類になにをもたらしたのか』竹沢尚一郎〈たけざわ・しょういちろう〉(中公選書、2023年)
「死者を悼(いた)む文化が存在するのはヒトだけである」――それだけのことを冗長な文章で説明している。そのもっともらしさが、うんざりするほどの凡庸を物語っているように見える。
「『サピエンス全史』のあやまり」も説得力を欠いている。
56ページの文章を挙げてみよう。「明らかである」「疑いない」「不可能であったはずだ」「考えられている」――こうした言葉遣いが各所に見受けられ、説得力の弱さを隠蔽するかのように、読者の思考を特定の方向へ誘導しようとしている。
中央公論新社は西本願寺系出版社として出発し、現在、読売グループ傘下となっているが、「よくもまあ、こんな本を出したものだ」というのが率直な感想である。