古本屋の殴り書き

書評と雑文

実務的なセルフ・コントロール/『どんなことがあっても自分をみじめにしないためには 論理療法のすすめ』アルバート・エリス

『カウンセリングの技法』國分康孝

 ・実務的なセルフ・コントロール

『未処理の感情に気付けば、問題の8割は解決する』城ノ石ゆかり
『マンガでわかる 仕事もプライベートもうまくいく 感情のしくみ』城ノ石ゆかり監修、今谷鉄柱作画
『ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー』由佐美加子、天外伺朗
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル

★本書は科学的な考え方、理性、そして現実に、正確に従いそれらを促進する。そして不注意にも今日大部分の自助の本が勧めている神秘主義、狂信的な信仰、そして空想的な理想主義を厳しく回避する。
★本書はポリアナ的な底抜けに楽天的な“プラスの考え方”ではなく、ものごとの考え方の深い変容と、まったく新しい人生観を達成するよう援助する。ポリアナ的な考え方は、あなたが困難に対して一時的に対処することを援助するが、人生の長い道のりではあなたをしばしばだめにしてしまうからである。

【『どんなことがあっても自分をみじめにしないためには 論理療法のすすめ』アルバート・エリス:國分康孝〈こくぶ・やすたか〉、石隈利紀〈いしくま・としのり〉、國分久子〈こくぶ・ひさこ〉訳(川島書店、1996年/原書、1988年)以下同】

 タイトルが悪い。これだとみじめな人しか読まないだろう。読んだ時は気にならなかったのだが、入力してみると訳文もかなり悪い。川島書店は堅実な少部数出版で知られるが、編集の弱さが露呈しているように感じた。実にもったいない。

「ポリアナ的」とは『少女パレアナ』(エレナ・ポーター著)のこと。更に一時期流行ったプラス思考をも揶揄している。

★本書は、あなたが親の馬鹿な教えに従っていることについて親や社会状況を責めるのではなく、あなた自身が今の情緒的な混乱の原因であることを認め、その混乱を軽減することに対して全面的な責任をとるよう勧める。
★本書は、論理療法および他の認知療法認知行動療法のABCD理論を簡単にわかりやすい方法で提供する。ここで力説するのは、あなたの人生における刺激あるいは出来事(A:Activating Events)が、主としてあるいは直接的にあなたの情緒的な結果(C:Consequences)を引き起こしているものではないことである。主としてあなたを情緒的に混乱させているのはあなたのビリーフ・システム(B:Belief System)なのである。そしてあなたは自分で自分のイラショナル・ビリーフ(iB)を論駁し、(D:Dispute)変えることができるのである。本書は、あなたがあなたのイラショナル・ビリーフを論駁し、あきらめ、そしてその結果、新しい効果的な人生観に到達するための認知的、情緒的、行動的なさまざまな方法を示す。
★本書は、あなたの現在の欲望・願望・選択・目標・価値を守る方法を示すと同時に、あなたの大げさな神のような要求や命令をあきらめる方法を示す。これらの絶対的で独断的な「ねばならない、~すべきである(should,ought,must)」は、あなたの欲望や選択につけ加えたものであり、そしてそれらによって自分自身を苦しめているものである。
★本書は、「あなたはこのように考えるべきである」と【他の人】が考えていることにだまされ、暗示をかけられ、そしてそれに従うのをやめて、いかにして自立し主体的になるか、そしていかにして【自分自身のために】考えるかを教える。

 私は城ノ石ゆかりから流れを遡(さかのぼ)る形でアルバート・エリスを読んでいる。城ノ石はABCD理論(ABC理論ともABCDE理論とも)を自家薬籠中(じかやくろうちゅう)の物とし、ユニークな手法で際立たせた。

 國分康孝が心理学者であるのに対して、城ノ石はコーチかつトレーナーに近い。この差が明晰さの違いとなっているように感じた。もちろん城ノ石の方が上だ。

 イラショナル・ビリーフとは妄想である。「ねばならない、~すべきである」との思い込みが自分を苦しめる原因だ。我々は自分や他人に対して無数の「ねばならない、~すべきである」を設定する。で、「自分が考える当たり前」と「他人が考える当たり前」が一致しないところに齟齬(そご)が生じる。それがやがて戦争にまで至るのだ。「日本が考える当たり前」と「チャイナが考える当たり前」は既に衝突しつつある。

 アルバート・エリスのABCD理論は城ノ石ゆかりで花開いた感がある。