古本屋の殴り書き

書評と雑文

脱脂加工大豆醤油と丸大豆醤油との品質特性の比較

 実は丸大豆というのは、品種名でも丸い大豆の意味でもありません。 『大豆丸ごと使ってます』という意味なんです。大豆はお醤油造りには欠かせない原料ですが、ほとんどの醤油には大豆から油を抜いた『脱脂加工大豆』が使われています。 脱脂加工大豆を使うと醤油造りに使う菌が嫌いな脂肪分が少ないため、短期間での発酵が可能で、品質が均一化できてコストが安くできます。

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 つまり、大豆由来の大豆油が、これら大豆食品の食感に決定的な役割を演じているからである。しかしながら、唯一の例外が醤油である。醤油は赤褐色の透明な液体で、大豆油を全く含んでいない。原料大豆の中の大豆油は、醤油の醸造過程中に微生物の作用を受け、食用に適さない醤油あぶらに変化し、分離、除去されてしまう。従って、醤油の場合には、蛋白原料として脱脂大豆を用いても、品質的に、他の大豆食品にみられる様な大きな差を生じない。醤油が、他の大豆食品とは異なって、豊かな時代になった今日でも尚、脱脂大豆から作られていると云う事実の最大の理由はここにある。


 この様に考えると、大豆油は、醤油醸造にとって、本来、本質的に必要な原料ではないことになる。こうした考えが基礎になり、これに、戦中戦後の物資の欠乏をきっかけとして、ほとんどの醤油が、丸大豆ではなく脱脂大豆から作られる様になった。


 最近、ようやく、食の原点に戻り、醤油の良さを本格的に見直してみようと云う気運が起こってきた。そして、この様な視点から丸大豆醤油を醸造し、脱脂加工大豆醤油と比較検討してみると、両者の間に予想以上の差のあることが明かとなってきた。そして、今迄、醤油醸造には必要ないと思い込んでいた大豆油が、醤油の品質に可なり重要な役割を演じていることも判明したのである。そこで先ず、丸大豆醤油と脱脂加工大豆醤油との間に、品質的にどの様な違いがあるのか、それについて述べることにしよう。

 最初に、醤油の香りついて比較すると、香りの強さからいえば脱脂加工大豆醤油の方に軍配が上る。つまり、脱脂加工大豆から作った醤油は、丸大豆醤油に比べて、香ばしい強い香りが特徴的である。これに対して、丸大豆醤油の香りは、ずっとマイルドで上品である。従って、丸大豆醤油は、だしや素材の良い香りを打ち消すことなく、寧ろ、それを引き立てる効果を持っ。これに対して、脱脂加工大豆で作った醤油は、使い道によっては醤油の香りが強過ぎる。そのために、好ましくない香りを打ち消すにはよいが、同時に、よい香りをもマスクしてしまう。つまり、脱脂加工大豆醤油では、だしや素材の良い香りが活かせないとも云える。次に味についてであるが、丸大豆醤油の最大の特長は、その味の「まろやかさ」にある。すなわち、味の成分間の調和がよくとれて角がなく、ほのかな甘みを持っている。そして、旨みだけが引き立つことなく、実にまろやかな味になる。これに対して、脱脂加工大豆から作った醤油は、味が強く、ぴりっとしてきれがよいが、まろやかさに欠けるところがあるのである。それでは、醤油の色はどうか。丸大豆醤油は、脱脂加工大豆醤油に比較して、明るく、澄んで、赤味がかった色をしている。丸大豆醤油の諸味の中には、多量の醤油あぶらが諸味液汁の上層部に存在し、これが液汁と空気との接触を断ち、空気酸化による液汁の増色(色が濃くなる作用)を防いでいるものと考えられる。この様に、丸大豆醤油は、総合的に云って、まろやかな風味を特色とした、今の時代にマッチした醤油ということが出来る。しかしながら、どんな料理にも丸大豆醤油が良いと云うものでもない。脱脂加工大豆から作った醤油も、香りは豊かで、味の切れは良い。

 後で述べる様に、香りの成分を定量してみると、量的には脱脂加工大豆醤油の方が丸大豆醤油よりも多いのである。従って、その特長が活きる様な料理に使えば、素材の好ましくない香りを抑え、その力を十分発揮する。従って、脱脂加工大豆から作った醤油がよくないと云うことではなく、要は、どの様に使うか、その使い方と云うことになろう。


 つまり、丸大豆醤油は、総窒素やグルタミン酸で代表される旨味成分だけが際立つことなく、酸味成分と甘味成分の比率等がこれらとうまくバランスして、全体として、ほのかな甘味をもったまろやかな味となるのである。


つまり、丸大豆から作った醤油が、マイルドで上品な香りを有するのに反し、脱脂加工大豆から作った醤油が香ばしい強い香を有すると云うきき味の結果が、香りの成分の分析結果からも実証されたことになる。

【PDF:「醤油の品質と原料大豆 脱脂加工大豆醤油と丸大豆醤油との品質特性の比較」福島男兒】


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