古本屋の殴り書き

書評と雑文

将来を待つのは現在の否定/『わたしは「いま、この瞬間」を大切に生きます』エックハルト・トール

・『人生が楽になる 超シンプルなさとり方エックハルト・トール

 ・将来を待つのは現在の否定
 ・BGMのように流れている不満

『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』エックハルト・トール
・『世界でいちばん古くて大切なスピリチュアルの教えエックハルト・トール
『ニュー・アース』エックハルト・トール

悟りとは

「待つ人」でいることが習慣になっていませんか?
 人生をどれだけ、待つことに充てているでしょうか?
 わたしが「小さなスケールの待つこと」と呼んでいるものには、郵便局の順番待ち、渋滞、空港での待ち時間、待ち合わせなどがあります。「大きなスケールの待つこと」には、次の休暇を待つ、もっと良い条件での仕事を待つ、子供が成長するのを待つ、意義のある関係を築ける相手の出現を待つ、成功するのを待つ、お金を稼(かせ)ぐのを待つ、立派な人間になるのを待つ、さとりがひらけるのを待つ、などがあります。生涯を、人生のスタートを切る準備、すなわち「待つこと」に費やしてしまう人も、珍しくありません。

「待つこと」は、心理状態です。その根底には、「いまが嫌なので、未来を求めている」という思いがあるのです。自分が持っているものを要(い)らないと感じ、自分が持っていないものを欲しがっています。
 この種の「待つこと」を実践する人は、無意識のうちに、自分のいたくない「いま、ここ」と、自分のいたい「イメージの中の未来」とのあいだに、ギャップをつくっています。これが、心に葛藤(かっとう)を生み、「いま」を失わせ、人生の質を著しく損ねてしまう原因です。

【『わたしは「いま、この瞬間」を大切に生きます』エックハルト・トール:飯田史彦〈いいだ・ふみひこ〉責任翻訳(徳間書店、2003年)】

人生が楽になる 超シンプルなさとり方』と本書は、『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』の簡易版かもしれない。それでも読む価値はある。

「今ここ」というキーワードを広めたのは多分エックハルト・トールである。無論、覚者は一人残さず現在性に重きを置き、過去と未来は幻想であることを説いている。だが、これほどわかりやすく、シンプルに、「今ここ」を徹底したところにエックハルト・トールの大乗的精神が輝いている。

 確かにクリシュナムルティだけだと部派仏教的な行き詰まりを覚える。あまりにも神がかっていて、何かを実践する気になれないのだ。一方、エックハルト・トールは優しく、そして易(やさ)しい。

 クリシュナムルティ後にこれほど早く大乗的な教えが登場したのは、ブッダ滅後と比較して現代社会の情報量が桁違いであるからだ。きっと、21世紀以降は悟りの時代がどんどん進んでゆくに違いない。

 我々日本人にとっては東日本大震災福島原発事故は敗戦以来の衝撃であった。更に近年の脱炭素社会・新型コロナ騒動は権威的なグローバリゼーションと化して、企業や人々の自由を損なった。折からのインフレも心理的な閉塞感を生んでいる。

 ここから更に大規模な混乱に至れば、国民の怒りは暴動か戦争に向かうことだろう。それを防ぐのは、もはや悟りしかない。なぜなら、今我々に求められているのは「豊かさ」の価値を転換することであるからだ。

 モノやカネを幸福だと思い込んでいるところに我々の不幸がある。それらは自我の欠損を埋める飾りでしかない。

 欲望から離れた瞬間にエゴ(=自我)からも解放される。そこからのみ真の平和が始まる。