古本屋の殴り書き

書評と雑文

19世紀の欧米は不潔極まりなかった/『ワクチン神話捏造の歴史 医療と政治の権威が創った幻想の崩壊』ロマン・ビストリアニク、スザンヌ・ハンフリーズ

『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
『感染症の世界史』石弘之

 ・当初からデータを隠蔽し続けてきたワクチン医療
 ・平凡な医師たちはワクチン被害を知りながら沈黙し続けた
 ・19世紀の欧米は不潔極まりなかった
 ・ワクチン無効が明らかになると「一生続く免疫」から「重症化を防止」に変更
 ・1853年、イングランドでは天然痘ワクチン接種拒否が犯罪となった
 ・ワクチン未接種の不信心者に罰則
 ・ワクチン接種を強制するほど天然痘が流行
 ・感染症対策の基本は衛生、栄養、日光浴

ドキュメンタリー映画『突然死』(Died Suddenly)

必読書リスト その四

 イギリスの歴史学者ロイ・ポーターは薬の歴史についての本で、新しく産業化された都市における何百万もの人々の苦境について以下のように記した。

 何百万もの人々にとって、全生涯――大変短いものであることも多い――を通じてあまりにも典型的な社会の病理とともに恐ろしい夜を過ごしていた。【汚い部屋、よく浸水する地下室、高すぎる人口密度、空気と水の汚染、あふれ出る汚水溜め、汚染された水のポンプ、貧困、飢え、疲労、落ちぶれた者たち、これらはどこにでも見られた】。現代の掘っ立て小屋が並ぶ第三世界のスラムや難民キャンプと似たような、この時代の都市の状況はあらゆる病気の蔓延を招いた。新生児、幼児、子どもの死亡率は身の毛がよだつほどで、鉱山や工場では憎むべき児童労働が行われていた。平均寿命は著しく短く――労働社階級の間では20歳以下のことも多い――、どの場所でも病気が家庭崩壊と生活保護と社会の危機を引き起こしていた。

【『ワクチン神話捏造の歴史 医療と政治の権威が創った幻想の崩壊』ロマン・ビストリアニク、スザンヌ・ハンフリーズ:神瞳〈じん・ひとみ〉訳、坪内俊憲〈つぼうち・としのり〉監修(ヒカルランド、2023年)以下同】

 18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命の直後の様相である。実に意外であった。ただし明治以前に来日したヨーロッパ人が日本社会の清潔さに驚いた歴史を振り返ると腑に落ちる。なんといっても日本には河川が多いという地理的なメリットがある。そして神社での手水(ちょうず)や入浴などの文化があった。江戸時代において屎尿処理はほぼ完璧にリサイクルが行われていた。とはいうものの、「風が吹けば桶屋が儲かる」という俚諺(りげん)から眼病などは防げなかった事実が浮かんでくる。子供の死亡率も決して低くはなかった。子供が死ななくなったのは多分戦後のことだろう。

 清潔な水、適切な下水道システム、そして新鮮な空気はこれらの地区には存在しなかった。衛生に関するインフラストラクチャーが存在しないので、人間と動物の糞尿は通りにあふれ出し、近くの細流に、やがて川へと流れ込む。その川はしばしば居住者たちの腫瘍な水の供給元でもあるのである。衛生設備はもっと少ない人口を念頭に作られており、機能しなくなっていた。汚物溜めはあふれ出し地域の上水道に滲み出ていった。

 産業革命の陰で人間が蔑(ないがし)ろにされていた歴史が見えてくる。こういったところに共産主義の台頭を許す隙(すき)があったように思えてならない。知っている方も多いと思うが、ハイヒールは道路の糞便を避ける目的で生まれた。

 人々はゴミを路上に投げ捨てていた。そしてそのゴミを豚、動物、ネズミなどが漁るのである。ニューヨークの路上の廃棄物は冬には2~3フィートに達した。家庭ゴミ、馬や他の動物の糞尿が路上の泥と混ざっていた。(中略)
 ニューヨークとボストンは1916年には何百万ものネズミに襲われ、相当な被害を受けた。

 ボストン保健委員会の細菌学分科会の概算によると、【ボストンにはびこる200万のネズミ】のせいで毎年7200万ドルの損害が生じている。ニューヨークにおけるこの害獣による損害は約9125万ドルになる

(中略)1860年のハーバーズ・ウィークリー、当時のメジャーな雑誌に掲載された「病院のネズミ」という記事はニューヨークのベルビュー病院における恐ろしい状況を日の下にさらした。

 本日、ベルビュー病院でネズミに喰われた幼児の遺体の検視が終了した。(以下略)

 やはり、武田邦彦が常々語っているように、「欧州人恐るるに足らず」ということか。民度の低さが獣性を感じさせる。

 この章には不潔極まりない都市の様子と共に、深刻な児童労働の実態が描かれている。子供は5~6歳になると働かされていた。欧州文明が常に奴隷を必要としてきた名残(なご)りなのか。「日本ほど子供が大切にされている国はない」と外国人が驚嘆したのも当然だったのだ(『逝きし世の面影渡辺京二)。同じ頃、欧米の児童は親や教師から鞭で打たれていた。

 Wikipediaの「天然痘」はスカスカの記事でどうも意図的なものを感じてしまう。ペストの陰になっているとも考えられるが、ヨーロッパにおけるワクチン接種を決定づけた事件なのだ。

 ヨーロッパの感染症拡大の背景には「不潔な社会」が存在した。これを指摘した声を聞いた例(ためし)がない。私も本書で初めて知った次第である。