古本屋の殴り書き

書評と雑文

“社会機構(システム)と現実の乖離が歴史を変える/『ゲームチェンジの世界史』神野正史

『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠

 ・“社会機構(システム)と現実の乖離が歴史を変える

『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

世界史の教科書
必読書リスト その四

 しかし、社会機構(システム)というものはひとたび安定すれば“固定化”してしまいますが、世はつねに移ろいゆくため、徐々に“社会機構(システム)と現実が乖離(かいり)”していき、それにより社会は次第に不安定になっていきます。
 この状態をジェンガで喩(たと)えれば、“ゲーム進行中”に当たります。
 ゲーム進行中、塔は一見微動だにしていないように見えます(社会機構の固定化)が、じつは一歩進むごとに不安定になっていき(社会機構と現実の乖離)、そして“最後の一本”が引き抜かれたとき、高々と積み上がった塔が一気に倒壊します。
 同じように社会も、現実との乖離が“臨界点”に達したとき、一気に社会の崩壊が始まり、そうした時代が一般的に「乱世」「激動の時代」と呼ばれます。
 時とともに「乱世」は収まり、ふたたび社会は安定期(泰平の世)を迎えることになりますが、そこでは乱世前の安定期とはまったく異なる精度・体制・機構(システム)・社会理念となっているため、歴史家は乱世前を「旧時代」、乱世後を「新時代」としてそれぞれに固有名詞を与えることになります。
 このように「従来の枠組・常識・ルールがまったく通用しなくなること(ジェンガの塔が倒れるとき)」を今風の言い方で「【ゲームチェンジ】」と言います。
「歴史」というもはゆっくり“なだらかに変化”するのではなく、「泰平の世(安定期)」と「激動の時代(変革期)」を繰り返すものですが、ジェンガで塔が倒れるのは“最後の一本”を引き抜いた瞬間であるように、時代が「激動の時代」に入るときには、何かしら“引き金となるような契機(きっかけ)”があるものです。


【『ゲームチェンジの世界史』神野正史〈じんの・まさふみ〉(日本経済新聞出版、2022年)】

 誕生→安定→不安定→崩壊というサイクルを仏教では成住壊空(じょうじゅうえくう/四劫)、あるいは生老病死と説く。エントロピー増大則と考えてよい。

文明とエントロピー/『ほんとうの環境問題』池田清彦、養老孟司
ポーカーにおける確率とエントロピー/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
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 生命体がまとまりを保っているのはエントロピーを外部に捨てているためであるが(排泄物、環境破壊など)、宇宙の歴史からすれば人生の期間は朝露ほどの長さもない。それこそ点に等しい現象であろう。時間の概念が我々に存在感という錯覚を与えているのである。

 変革期の渦中にいる人は激動を感じない。実は想像以上に緩慢な動きであるためだ。破壊の最たるものである戦争ですら数年単位で行われる。

 現在は予想もつかないような激動の時代である。まず、コンピュータの発達が挙げられよう。私が子供の時分は電卓やデジタル表示の腕時計が登場しただけでドキドキしたものである。それがどうだ。マイコンに始まり、ワープロができて、ポケットベルを経て、移動電話が携帯電話となり、遂にパソコン&インターネットが登場したのが1990年代後半だ。そして、2007年にiPhoneが発売される。それ以降はIoTの実装化が進み、ロボット・AI・ビッグデータ・仮想通貨・3Dプリンターと飛躍的な進歩を遂げる。もはやその中身を理解する人は少ない。私自身、スマホの扱いに苦労している。っていうか、あんな小さな画面を見る気になれない。たぶん、新しい時代に適応できない人を老人と呼ぶのだろう。「今時の若い奴」を嘆く声は大昔からあるとされているが、時代の変化に取り残された老人の戯言(たわごと)かもしれない。

 新型コロナ騒動、脱炭素社会、そしてこれから始まる昆虫食が時代の激動に拍車をかける。その上、アメリカの覇権が衰え、中国とインドが台頭する。そのきっかけづくりがウクライナ紛争なのだろう。欧米が焦って急ハンドルを切れば、プーチン暗殺も十分考えられる。

 これからの数年で日本の命運が決まる。世界の盟主が中国になった時、果たして日本がどうするか。経済的利益を優先して属国の道を選ぶか、あるいは戦いも辞さずの覚悟で独立の道を選ぶのか。それを決めるのは我々日本国民である。