古本屋の殴り書き

書評と雑文

富士の威容を仰ぐ

富士山1周ツーリング

 ・富士の威容を仰ぐ

 山梨県は到るところから富士山が見える。コンビニの駐車場から白い山頂が見えた。

 そして反対側にも富士山があった。

 たまたま一緒に喫煙していた女性に尋ねた。「山梨はどこからでも富士山が見えるんですか?」「大抵見えますよ」とのことだった。コンビニを出入りする人は誰一人として富士山を見ていなかった。むしろ私にとってはそのことの方が驚きだった。

 富士の威容を仰ぐたびに私の心胆は震えおののく。はっきり言おう。怖い。物凄く怖い。まず、あのでかさである。連峰だとなんとなく地続き感があって単独の対象として認識しにくい。すっきりと円錐形を保つ富士山は完全に一人立つ姿をしている。そして美しい。あまりにも美しい。更に山頂の雪が厳しさを表している。目を凝らすと雪崩の跡が見えることもある。「あのあたりを登っていれば、あっさり死ぬことができるな」という厳しさだ。

 昨日、河口湖まで走ってきた。初めて行ったので富士山の方向がわからなかった。河口湖大橋を渡って国道137号線を山中湖方面に右折した。何気なく右手を見ると、そこに富士山があった。普段はバイクにまたがったまま撮影するのだが直ちに停車した。停めずにいられなかった。


【河口湖】

 写真では決して伝えることのできない圧迫感に気圧(けお)された。一瞬、「もう死んでもよい」と思うほどの感動だ。その場でのた打ち回ろうかと思った。私は富士山を見た。そして富士山も私を見た。あの山は確かに下界の世の動きを見つめている。有象無象の喜怒哀楽や秘め事や嘘偽りまで見透かしていることだろう。神は信じないが富士山は信じられる。あの姿を見れば、いかなる人であれ生きる姿勢を正さざるを得なくなる。富士と正対することには覚悟が求められる。


三国峠から。右は山中湖】

 せっかくなんで三国峠まで足を運んだ。昔、自転車で走ることを夢見た場所だ。こちらからだと富士の左肩にコブが見えるが、光の加減が違って別の味わいがある。

 山梨県静岡県は犯罪率も低いことだろう。いじめも少ないに違いない。もしもそうでなかったら、この私が承知しないぞ。