古本屋の殴り書き

書評と雑文

40年以上に渡って少子高齢化を放置してきた政府と官僚/『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎

『平成経済20年史』紺谷典子
『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー
大村大次郎

 ・この国に税金を払う価値はない
 ・40年以上に渡って少子高齢化を放置してきた政府と官僚

『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一
『対論「所得税一律革命」 領収書も、税務署も、脱税もなくなる』加藤寛、渡部昇一

必読書リスト その二

 私が、少子化問題に失望しているのは、この数十年の間、少子高齢化に対してまともな手がまったく打たれていない、ということである。
 少子高齢化は、つい最近始まったことではない。子供の数が減り始めたのは1981年のことなのである。実に33年も前のことだ。
 33年前から、このままいけば日本は少子高齢化になることがわっていたのだ。33年の間に、しっかりとした対策を打てば、相当のことができはずである。
 しかし、国はまったく何もやってこなかった。
 というより、国はわざわざ少子高齢化が進むようなことばかりをやってきているのだ。
 少子高齢化は、日本人の晩婚化、非婚化が進んだために起きたと思われがちである。確かに日本人の結婚観が大きく変わり、それが少子化の一因であることは確かである。
 しかし、最大の理由は経済問題なのだ。
 90年代以降、日本では急速に非正規社員が増えた。これが、少子高齢化を急加速させているのである。データを見れば明白である。
 男性の場合、正社員の既婚率は約40%だが、非正規社員の既婚率は約10%でしかない。非正規社員の男性のうち、結婚している人が1割しかいないのであれば、事実上、非正規社員の男性は結婚できないということである。
 男性はやはりある程度の安定した収入がなくては結婚はできない。だから非正規社員では、なかなか結婚できないのである。
 つまり、
【「非正規社員が増えれば増えるだけ未婚男性が増え、少子化も加速する」】
 ということである。
 少し考えれば、誰でもすぐにわかるはずである。
「若い男性の収入が少なくなれば、結婚が減る」
 これは今に始まったことではなく、昔から世界中で起きている現象である。
 そして、データにも明確に出ていることなのである。
 にもかかわらず、政府や産業界のリーダーたちは、むしろ非正規社員を増やす方向に国を導いてきた。「国際競争力の向上」を旗印にして、企業の業績ばかりを重視し、雇用を極端に軽視してきたのである。
 現在、働く人の3人に1人が非正規雇用である。
 その中で男性は、600万人以上もいる。10年前よりも200万人も増加したのだ。つまり結婚できない男性が、この10年間で200万人増加したようなものである。

【『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(ビジネス社、2014年/改訂版、2022年)以下同】

 有吉佐和子〈ありよし・さわこ〉が高齢者の介護問題を指摘したのが1972年(昭和47年)のことである。

長寿は“価値”から“リスク”へと変貌を遂げた/『恍惚の人』有吉佐和子

バブル崩壊(1991年)後の日本を見てみよう。終身雇用が失われ非正規雇用が増え始める。学校ではいじめが日常茶飯事となり、若者の間ではニートや引きこもりが増加。人口構成は高齢化社会(65歳以上人口が7%、1970年)~高齢社会(高齢化率14%、1994年)~超高齢社会(高齢化率21%、2007年)と変遷してきた(Wikipedia)。有吉佐和子少子高齢化を指摘したのが1972年のことである(『恍惚の人』)。200万部を超えるベストセラーとなったが政治家も国民も本気で考えようとはしなかった」(マネーと言葉に限られたコミュニケーション/『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎)。

 非正規雇用の規制が緩和され、何かといえば竹中平蔵宮内義彦の犯行として槍玉に挙げられるが、労働者派遣法が成立したのは中曽根内閣(1985年)で、対象業務を拡大したのが橋本内閣、そして自由化したのが小渕内閣である。

 当時はアメリカのような雇用の流動化を望む声があった。1990年代に入ると人件費のコスト意識が高まり、固定費削減のために企業側は非正規雇用を歓迎した経緯がある。バブル景気の余韻もあってその頃は派遣の方が賃金が高かった。

 カルロス・ゴーンが日産で大鉈を振るってから風向きが大きく変わった。リストラは経営者の果断として持て囃(はや)された。時代の波を読み誤った大企業は淘汰された。銀行の護送船団方式は既に歴史キーワードとなった感がある。

 企業の目的が利潤追求であるならば生産性を高めるのが至上課題であるという思い込みが蔓延した。「会社は株主のもの」であり、株主利益を最大化することが経営者の仕事とされた。株価を維持するために経営者は短期的な利益を追求せざるを得なくなった。そこで一番簡単な手法がコスト削減、すなわちリストラであった。

 結婚の目的が子作りにあるとすれば、次々と離婚を繰り返して子供を作ることに一定の合理性があることになってしまう。つまり「非正規嫁」だ。ところが実際は資本家ですらそんな真似はしていない。もちろん仕事と夫婦の関係性を同じ俎上(そじょう)に乗せることが正しいとは思わないが、「同じ時間を共有する」という意味では似た側面もある。

 明治維新では脱藩藩士が活躍したが、旧幕府を倒した後は戊辰戦争西南戦争が起こった。レジーム・チェンジには必ず犠牲が伴う。もしも労働者が雇用の流動化を望むのであれば、既得権益者は引きずり降ろさなければならない。

 しかも非正規雇用が増えた影響は、「少子高齢化問題」だけにとどまらない。
 財政問題にも多大な影響を与えるのだ。
 というのも、現在の日本では非正規雇用者が1900万人を超えているが、この人たちのほとんどは、まともに社会保険に加入していない。だから彼らが高齢者になったとき、【ほとんどの人の年金の額は生活保護以下】だと見られている。
 それどころか、年金自体に加入していない者も多数いる。(中略)
 彼らは、老後どうやって生活するのか?
 普通に観がれば、彼らが自分自身で生活するすべはない。
 彼らは日本人だから、もちろん生活保護を受給する権利を持っている。
 つまり今後、非正規雇用の人たちが退去して生活保護受給者になっていくと考えられるのだ。
 そうなると、数百万人の単位では済まない。数千万人レベルで、生活保護受給者が生じる。【国民の20~30%が生活保護という事態もあり得るのだ。】

 経済的な要因もさることながら、戦争を含む環境変化が近いことを示唆しているように思う。私は「子供が生まれたがっていない」ように見えて仕方がない。

 昆虫を含む社会性動物の特徴は協働にある。ところが資本主義経済は協働をマネー仲介システムに変えてしまった。しかも借金と利息で回り続ける経済は実体経済GDP)よりも金融経済が100倍に膨れ上がっている。有り余ったマネーが津波のように襲いかかってくることが懸念されている。

 BRICsを中心にドル離れが加速しているが、ドル安が明確になった段階で世界のレジーム・チェンジが具体的な実像を現すことだろう。