古本屋の殴り書き

書評と雑文

「血の気が引く」ことの進化的意味/『破壊天使』ロバート・クレイス

 スターキーの指が冷たくなった。頭の皮がちくちくした。俗にいう「血の気が引いた」状態だ。地を身体の中心部に集めることで、出血を最小限にして自己を守る、身体の仕組みである。むかし人間がまだ獣で、身の危険といえば爪や牙(きば)など人間を引き裂こうとするものが相手だったころの名残(なごり)だ。スターキーの世界では、いまだにそういったものが身を脅(おびや)かす場合も多かった。

【『破壊天使』ロバート・クレイス:村上和久〈むらかみ・かずひさ〉訳(講談社文庫、2002年)】

 体の反応には進化的な意味が必ずある。生物の不思議は設計以上の何かが機能していることだ。AIは無限に言葉のパターンを生み出すことはできるだろうが、身体的(物体的)な限界を抱えている。脳は全身の神経系と連動しており、双方向性によって変化することが可能だ。

 汗をかくのは放射熱によって体を冷ますためであり、熱を発するのは高い温度でウイルスを殺すためだ。ところが昨今はこうした反応を忌避して、身体(しんたい)を弱める方向に向かっている。脆弱な体が淘汰されるのは当然だろう。

 ロバート・クレイスは人気作家のようだが、どうも肌が合わなかった。