古本屋の殴り書き

書評と雑文

食塩摂取量と高血圧の因果関係

『日本人には塩が足りない! ミネラルバランスと心身の健康』村上譲顕
『「塩」をしっかり摂れば、病気は治る 病気の因を断つクスリ不要の治療法』石原結實

 ・食塩摂取量と高血圧の因果関係

◯食塩摂取量と高血圧は関係ありますか? と問われた時、多くの人々は関係ありますと答えるのではなかろうか。しかし、それは正しい答えではなく、関係あることもありますと言うのが正しい答えである。

◯一般的には塩が高血圧の原因とされ、減塩により高血圧を非薬物的に治療し、あるいは高血圧を予防しようとしている。しかし、塩と高血圧との関係は仮説でしかなく、それはまだ証明されていない。

◯1966年から1997年までに発表された減塩の効果に関する論文をメタアナリシスした結果では、万人に減塩を勧めることを支持していない。

◯科学的なデータの裏付けがない(結果に再現性がない)にもかかわらず、予防医学の観点から、疑わしきは罰するという考え方から、塩に対する保健政策が行われてきた。この表現には異論を唱える人々もいるかと思われるが、物の見方で考え方が変わる。塩を黒色と見 るか、白色と見るか、灰色と見るかによって、塩に対する善悪の表現が変わってくる。

◯高血圧症は遺伝性の疾患であることから、個人差の大きいことが分かってきているにもかかわらず、相変わらず減塩推進だけの一方的な情報しか流れない。従って、一般の人々には正当な判断をすることができない状態に置かれているように思われる。

◯つまり高血圧患者の半数以上は、減塩しても降圧効果はないのである。それにもかかわらず、全ての人々に減塩を盛んに勧める保健行
政がとられているのは、予防医学の観点からと、減塩しても害がないという仮定からであろう。

◯最近ではScienceに塩の(政治的)科学と題する論文が掲載された。塩と高血圧の問題から減塩政策が進められているが、科学的な根拠に基づいて進められているのではなく、政治的な判断で発表論文を解釈し、政策を立案、進められている、といった内容である。

◯ところが、減塩したときの集団の血圧応答は図4のように正規分布を示し、減塩で血圧が下がる人もいれば、逆に上がる人もいることが分かっている。

◯また、減塩で血清中の総コレステロール及びLDL-コレステ ロールが上昇したとか、食塩摂取量が少ないほど心筋梗塞になる危険率が高くなった、といった報告が発表され始めた。一般的に、減塩によって塩味が薄くなるとおいしく感じられなくなり食欲がわかなくなるため食事を食べられず、十分な栄養摂取が行われなかったり、睡眠不足になったり、激しい発汗で熱ばてを起こしたり、下痢や出血で電解質バランスを崩しやすい、といったことは以前から指摘されてきたことである。

◯ごく最近ではアメリカの国民保健栄養試験調査を解析して、ナトリウム摂取量が少ないほうが、全ての死因や心臓血管疾患による死亡率が高いといった結果や、減塩しなくても野菜、果物、低脂肪乳製品の摂取で食生活を改善すれば、血圧を下げられるといった結果も発表されている。

食塩摂取量と高血圧の因果関係をめぐって 橋本壽夫 (財)ソルト・サイエンス研究財団/『栄養学雑誌』1999年57巻5号 1999/10/01