古本屋の殴り書き

書評と雑文

町井勲×北川貴英(システマ)

『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英

 ・町井勲×北川貴英(システマ

 昔、町井は結構テレビ出演していて、ピッチングマシンから繰り出される時速150kmのボールを居合で一刀両断にした。それどころではない。モデルガンから発射されたBB弾まで真っ二つに斬り捨てた。現在、ギネス記録を六つ保持している(Wikipedia)。

 町井の口調は静かで淡々としており、いかにも武術家らしい。タレント性はゼロである(笑)。しかしながら、語られる内容は実に奥深く、温故知新の探究を続けながら、現代において独創の花を咲かせた人物ならではの説得力に満ちている。

 武術の伝承はともすると途絶えがちである。そもそも武術家というのは「技を隠す」のだから当然だ。実子であったとしても、相伝の時期が訪れるまでは秘伝のままだ。なぜならば、実子に殺されることまで想定しているからだ。戦前まで武の厳しさは連綿と続いてきた。しかも、戦前の名だたる武術家は実際に人を殺(あや)めているのだ。畳やリングの上で行われるゲーム(試合)とは質が異なる。

 ただ、動画を見ているだけでは、「肘の力を抜く」とか「股関節の動きで」といった妙技はわからない。だからこそ、より一層の興味と関心が刺戟(しげき)されるのだ。

 町井勲〈まちい・いさお〉や山城美智〈やましろ・よしとも〉は日本の宝である。政府は人間国宝に認定するのが筋だろう。