古本屋の殴り書き

書評と雑文

慢性的無秩序/『戦争の新しい10のルール 慢性的無秩序の時代に勝利をつかむ方法』ショーン・マクフェイト

・『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』喬良、王湘穂
・『現代戦争論 超「超限戦」 これが21世紀の戦いだ』渡部悦和、佐々木孝博
・『中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争 知能化戦争』龐宏亮

 ・慢性的無秩序

・『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』成田悠輔

 この拡散する無秩序化は、私が「慢性的無秩序」(durable disorder)と呼ぶ新しいグローバルシステムの到来を示している。それは問題を解決するのではなく包み込んでいる。この状態は来るべき時代を規定するだろう。世界はアナーキー無政府状態〕に向かうのではなく、私たちが知るルールに基づく秩序(rulesbased order)が崩壊し、もっと生々しい野蛮な世界に取って代わられるだろう。無秩序は中東とアフリカを覆い、アジアとラテンアメリカの相当部分に広がり、欧州に迫りつつある。やがてそれは北アメリカに到達するかもしれない。
「慢性的無秩序」の決定的な特徴は、いつ果てるとも知れぬ武力紛争が継続することであり、それは私たちが経験したことのないものだ。私たちは、現代と将来の戦争に関する厄介な問題を問いかけ――そして答え――なければならない。つまり、誰が戦うのか、なぜ戦うのか? いかに戦うのか? いかにして我々は勝利できるのか?
 今後数十年、私たちは「国家の関与しない戦争」(wars without states)を目の当たりにするだろう。そして国家はより強力なグローバル・アクターに乗っ取られる戦利品となるだろう。すでにそうなっている国もあるが、多くの国民国家は名ばかりの存在になる。戦争はたいてい隠密な手段によって目立たない形で戦われ、情報時代においては火力よりも「武力紛争への関与を否認できるもっともらしい根拠」(plausible deniability)の方が有効であることが証明されるだろう。
 伝統的戦闘というものがあるとすれば、それは決定的な役割を果たさない。勝利の方法は変化し、勝利は戦場ではなく、どこか別の場所で達成されるだろう。紛争は始まりも終わりもなく「永遠の戦争」(フォーエバー・ウォー)の中ですり潰される。「戦争」や「平和」という用語は無意味となる。戦争放棄は記憶から消え失せるだろう。国連も同じように紛争に対して無力をさらけ出すだろう。仮に国連は存続しても、単なるレターヘッド〔便せんの上部に印刷された社名やロゴマーク〕のようなものになってしまうだろう。
 また、傭兵が復活するだろう。それはAK-47を肩に吊るした傭兵ではなく、ドローンのガンシップを飛ばしたり、特殊作戦部隊チームを競売にかける傭兵である。ある者は国を乗っ取り、王として君臨するかもしれない。戦争の民営化は戦い方を根本から変え、伝統的な戦略家たちには理解不能な現実となる。それは国際関係を歪める。大富豪が軍隊をレンタルできるようになれば、彼らは新しいタイプのスーパーパワーとなり、国家や「ルールに基づく秩序」に対抗する力を持つ。各界の億万長者がするように、巨大石油会社は私的軍隊を持つだろう。実際、これはすでに起きている。麻薬密売組織のボスは私的な武装組織を保有し、国家を乗っ取り、ゾンビのような「麻薬国家」に変えている。
 最も効果的な兵器は弾丸を撃たないだろう。情報、難民、イデオロギー、そして時間といったノンキネティックな〔弾丸やミサイルなど運動エネルギーを利用した兵器と異なる日物理的な〕要素が兵器として使用される。巨大軍隊や超絶テクノロジーは無能振りをさらけ出す。核兵器は大きな爆弾(big bomb)と見なされ、限定核戦争は一部で許容されるだろう。核のタブーが永久に続くとは想定できないのだ。


【『戦争の新しい10のルール 慢性的無秩序の時代に勝利をつかむ方法』ショーン・マクフェイト:川村幸城〈かわむら・こうき〉訳(中央公論新社、2021年)】

「慢性的無秩序」――これがグレート・リセットダボス会議の2021年テーマ)の目的なのだろうか? 第二次世界大戦以降のシステムをリセットするのであれば、パックス・アメリカーナの時代が終焉を告げることは確実だ。ドルが下げ始めれば、まず間違いない。

 ロシアによるウクライナ紛争は軍需産業に活を入れ、転落しかかっていた資本主義を救う契機となるかもしれない。私は今秋あたりから大暴落を予想していたのだが、アメリカの金融筋からは強気発言がチラホラ出るようになった。

 慢性的無秩序が示すのは戦争経済であろう。これからは武器や兵器の消費が世界経済を支えるのだ。

 ショーン・マクフェイトが示す「戦争の新しいルール」は以下の通りである。

 ルール1 「通常戦」は死んだ
 ルール2 「テクノロジー」は救いにならない
 ルール3 「戦争か平和か」という区分はない。どちらも常に存在する
 ルール4 「民衆の心」は重要ではない
 ルール5 「最高の兵器」は銃弾を撃たない
 ルール6 「傭兵」が復活する
 ルール7 「新しいタイプの世界パワー」が支配する
 ルール8 「国家の関与しない戦争」の時代がやってくる
 ルール9 「影の戦争」が優勢になる
 ルール10 「勝利」は交換可能である

 真の危機をメディアが隠蔽し、昨今の新型コロナ感染者数(実際は陽性者数)報道のように、人々の不安を煽る情報操作が行われることだろう。怯える羊は扱いやすいからだ。1頭の犬(=メディア)さえいればよい。