・『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ
・『消されかけた男』ブライアン・フリーマントル
・『裏切りのノストラダムス』ジョン・ガードナー
・『女性情報部員ダビナ』イーヴリン・アンソニー
・無意識の協力者
・『裏切りのコードネーム』イーヴリン・アンソニー
・『殺意のプログラム』イーヴリン・アンソニー
・『緋色の復讐』イーヴリン・アンソニー
・『聖ウラジーミルの十字架』イーヴリン・アンソニー
連絡員の報告で、その日、イーゴリ・ボリソフが何か重要な発表をすることを、皆が知っていた。ボリソフの自信に満ちた態度から、それが、重要な情報活動の勝利を伝えるものであることは明白だった。会議も半ばにさしかかり、いよいよボリソフの議題になった。議長が頭を重そうに上げて、彼に合図した。ボリソフは立ち上がった。政敵のルジェンコとは、会議の前になごやかにことばを交わしていた。ボリソフは一同を見回した。自分に向けられた目を見れば、味方か、敵か、まだ態度を決めかねている中立か、分かる。
「議長、同志諸君、ご報告申し上げます。先日ご説明した《羽毛の蛇(へび)》計画は、いよいよ仕上げにかかっております。詳細はお配りした資料をご覧いただきたいと思いますが、その前に一言、申し上げておきたいことがあります。これから、ニューヨークの、ある政治ジャーナリストに行動を起こさせるところでありますが、この記者は、われわれの正式なエージェントではありません。いわば、無意識の協力者といったところです。資本主義社会の退廃の産物とでも言いましょうか。資本主義社会の悪い面しか見ようとせず、自分の国、自分が属する社会を攻撃することに喜びを見出している人物であります。国や社会がすることは、何をしても間違っている、と思っているのです」彼は一同を見回した。笑みがこぼれた。「われわれの社会では許されざる病いです――もちろん、反体制論者の行動の中に、その症状が若干、見えないわけではありませんが……。ところがこの記者は、自国の政府のスキャンダルを暴(あば)くことに誇りを抱いているのです。それが、自国の敵に忠誠を尽くす、あるいは、自国の敵を利することになるとしても、それによって彼の行動が左右されるということはありません。スキャンダルは、2~3週間のうちに暴露されるでしょう」
ダビナ・シリーズの第2作は舞台がアメリカだ。
ボリソフは新任のKGB議長である。SIS(MI6)を去ったダビナに復讐すべき相手が告げられる。それがボリソフだった。
共産党シンパの反体制主義を利用して、国家を転覆する方向へ巧みにリードするのが彼らの手法である。大東亜戦争においても同様だった。
・『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫
アメリカのルーズヴェルト政権にも左翼は完全に浸透していた。現行憲法を始めとする日本の戦後政策が国粋主義を封じてリベラルに傾斜したのもその影響である。
私が返す返すも口惜しく思っているのは、バブル景気を謳歌している時に欧米の左翼を日本が支援してこなかったことだ。例えば2発の原爆や東京大空襲などのホロコースト、はたまた「発見の時代」(Age of Discovery/大航海時代)から帝国主義に至るまでのヨーロッパの横暴など、こうした歴史を左翼にしっかりと打ち込んでおくべきだったと思えてならない。
特に第一次世界大戦後のパリ講和会議で日本が出した人種的差別撤廃提案(1919年)などはリベラル勢力に受け入れやすかったことだろう。あるいは日本の歴史上、奴隷が存在しない事実も称賛されたに違いない。
日本はたった一度の敗戦で骨抜きにされてしまった。このため国家のグランドデザインはおろか、自国の戦略すら持つことを許されていない。バブル崩壊以降、長らく賃金が上がらないのは政府の無能もさることながら、日本の富がアメリカに収奪されるシステムが完成しているためだ。我が国は政府がゴールドを所有することすら認められていないのだ。各国が利上げする中で日本円だけが低金利を続けているのも、米国債やドルを買わせるためだ。
アングロサクソンやユダヤ人はシナリオを作るのが巧みだ。それは彼らが聖書というバイブルを生きているためだ。神の意志を遂行する彼らに恐れるものは何一つない。映画や小説といった文化もやはり白人は優れた能力を発揮する。これに対して日本人の文化は俳句や和歌だ。起承転結や説得力に欠ける。詩情では優(まさ)るが結構や構成が弱い。