古本屋の殴り書き

書評と雑文

「身」の意味/『養生訓に学ぶ』立川昭二

『すらすら読める養生訓』立川昭二

 ・「身」の意味
 ・「気」という文化

・『養生訓貝原益軒松田道雄
・『養生訓・和俗童子訓貝原益軒:石川謙校訂
『静坐のすすめ』佐保田鶴治、佐藤幸治編著

身体革命
必読書リスト その四

 日本語の身にはさまざまな意味がある。たとえば、「身をたて」は「身分」「身代」「身内」とおなじで世間における自分の地位をいう。「身を入れる」の身は気持ちのこと、「身のため」の身は自分自身のこと、「身をけずる」の身はいのちのこと、「身をこがす」の身は情のこと、そして「身につける」「身のこなし」「身にしみる」「身をまかす」の身は、益軒のいう「身をたもつ」の身とおなじで、おもにからだのことをいう。私たち日本人は「身のまわり」を身のついたことばで囲まれている。
 このように、身というのは、なによりからだと心をわけない日本人の考え方をよく表したことばである。ヨーロッパ流のマインド対ボディという二分法的な考え方ではなく、心身相関の考え方である。
「気」という思想は、この「身」という考え方とむすびついている。さきの「心気」「血気」ということばにみられるように、心にも血にもおなじ気があり、気がめぐっている。その気によって人のからだは保たれ動いている。
 こうした考えは、私たち現代人に馴染み深い解剖生理学にもとづく近代西洋医学の身体観とは根本的に異なる。近代西洋の身体観は、いわば固体的・空間的・部分的な考え方である。それに対し、この『養生訓』にみられる「気」を根本とする身体観は、いわば液体的・時間的・全体的な考え方であり、心身相関の考え方である。


【『養生訓に学ぶ』立川昭二〈たつかわ・しょうじ〉(PHP新書、2001年)】

「身」は妊婦を象(かたど)った文字で、中身が詰まった状態を表す。そして、身から振る舞いという言葉が連動する。「体が動く」だけではなく、スタイル(石川九楊)を含んだ所作を示す豊かな表現だ。動きの中に生き方を見出す視線である。そこには運命すらも含まれる。点ではなく「壮大な流れ」の中で我が身を捉える日本人の視点が面白い。気もまた「流れる」ものである。