古本屋の殴り書き

書評と雑文

歩く速度は4.8km 上限速度は時速10.8km/『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
『トレイルズ 「道」を歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー
『動物たちのナビゲーションの謎を解く なぜ迷わずに道を見つけられるのか』デイビッド・バリー

 ・歩く速度は4.8km 上限速度は時速10.8km

『「体幹」ウォーキング』金哲彦
『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘
『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀
『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れをしらない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
・『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史

身体革命

 初歩的な理解ではあるが、歩行については昔からある程度わかっていた。わたしたちがブラブラ歩いているとき、体重配分の平均位置である重心は、支持脚を軸として繰り返し弧を描くように動いている。この動きは振り子と似ているが、それは見た目だけではない(このとき描かれる弧は、昔ながらのメトロノームのように上下逆さの形をしているが)。振り子は、いったん動き始めると新たに力を加えなくても往復運動を繰り返す。運動エネルギーと位置エネルギーという、2つのエネルギー交換が永遠に続くからだ。振り子の重力による位置エネルギーは、おもりの位置する高さによって変わる。重力の位置エネルギーは、おもりが振り子の描く弧の両端にあるとき最大になる。おもりがその位置で何ものかに止められなければ、重力によって下方へ加速し、その位置エネルギーは運動エネルギーに転換される。

【『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン:神奈川夏子〈かながわ・なつこ〉訳(草思社、2019年草思社文庫、2022年)以下同】

 常歩(なみあし)を実践してから3年が経つ。涼しくなってきたので最近は10km前後歩いている。遊脚期に意外と脱力できていない事実に先日気づいた。特に私の場合、右足が。不思議なもので意識しだすとますます力が抜けなくなる。その上、微妙に拇指球までが踏ん張るようになっていた(本来は脱力する)。

「振り子運動」というキーワードを目にして、再度筋肉の使い方を確認できた。大殿筋と骨盤で脚を振るのだ。それ以外の部位の脱力が鍵となる。わかりにくければ、階段など段差のある場所で片足を振ってみるといい。

 大人の典型的な歩行速度は時速4.8キロ(秒速1.4メートル)である。これはわたしたちの身体に備わっている動力がもっとも効率よく使われているときの速度だ。燃料単位当たりの歩行距離が最大になる場合と考えていいだろう。

 無理に速く走る必要はない。歩き方に留意するのであれば、むしろ少しゆっくり歩くくらいがいい。私は「踵を踏む」ことを意識している。

 もっと厄介な問題もある。どうあがいたところで、人間はある一定の速度以上に速く歩けないのだ。平均的な成人男性の場合、上限速度は秒速3メートル(時速10.8キロ)を少し超えるくらい。限界の原因は、動く物体のまっすぐ動こうとする普遍的な傾向だ。

 1時間で10.8kmは相当なスピードである。

 この本を書いている現在、競歩の世界記録(ロシア人選手ミハイル・シチェンニコフが保持)は秒速約4.6メートルという信じられない速度だ。つまり時速16キロ以上である。

 驚愕……。マラソントップランナーが時速20kmだ。検索したところ、ミハイル・シチェンニコフよりも日本の鈴木雄介の方が速い(20キロメートル競歩)。計算すると時速15.7kmになった。マラソンの市民ランナーの平均速度が時速9kmといわれるので、その恐るべきスピードが理解できよう。

 ゆくゆく100km歩けるようになりたいと考えている。『56歳でフルマラソン、62歳で100キロマラソン』(江上剛著)という本があるくらいだから可能だろう。ウルトラマラソンの記録を見ると、100kmを6時間余りで走っている。信じ難いスピードだ。

 ただ私の場合、距離がどうのこうのではなく、100km歩けるようになった時の体の変化に興味があるのだ。きっとお腹は凹み、頬はこけ、目つきは鋭く、風の動きに敏感になっていることだろう。ま、なってなかったら御免よ。