クルマや自転車はハンドルを切れば曲がってゆく。ところがエンジンの排気量が250ccを超えるバイクは曲がらない。恐ろしいほど曲がらないのだ。200kg前後の重量が数十kmの速度で走ると前後2輪のタイヤには直進する力が働く。多くの人が子供の頃、自転車で手放し運転をしたことがあるだろう。ある程度のスピードがハンドルの直進性を生むのである。そして速度を緩めるとハンドルは自然と切れる。これをセルフステアという。バイクの運転はセルフステアを誘導し、かつ妨げないことが最も大事なポイントである。
「プロフェッサー」を名乗るだけあって頑迷な印象を受ける。自分は「知っている人間」で、視聴者は「教えられる側」とでも思い込んでいるのだろう。二つ目の動画では「体重移動でバイクを傾けたと仮定して、どうやって体重移動でバイクを起こすのか?」という愚問を発している。バイクを起こす方法は加速かブレーキだろう。また彼は体重移動で曲がることを完全に否定しているが、横方向へ荷重すれば起き上がっているものが倒れようとするのは単純に物理的な現象である。しかも、「微細なプッシングステア」と説明しているが、片山敬済のプッシングリーンとは異なる。
プッシングリーンの場合、曲がり始めた後も押し続けるのだ。やってみるとわかるが押せば押すほどバイクは曲がる方向に倒れ込んでゆく。著作によれば、レース時はスロットル操作を優先するため、右カーブは右ハンドルを押すのではなく、左ハンドルを引くという操作を行っていたとのこと。
いかにも教習所の指導員らしく、一方的な話しぶりでしかも説明能力が劣っている。その上不正確なのだ。コメントにもある通り、ステップ荷重がイン側なのかアウト側なのかがよくわからない。たぶん「内足荷重」なのだろう。
ただし、「ステップ荷重はシート荷重よりもクイックに曲がることができますが、リアタイアに荷重がかからないのと、ずっと荷重をかけ続けることができないので曲がり方が弱いです。グイグイ曲がって行きません」(okomoto)との指摘もある。
「カミソリレーシング」を名乗るだけあって恐ろしいスピードで峠を駆け抜けている。この2点については全く正しいと思う。
では、正真正銘のセルフステアをご覧いただこう。
— BELIKEBRO (@BLB247) May 23, 2017
GSX-R750の車重は190kgである。ハンドルを握っていないのだから体重移動で曲がっていることが明らかである。アイドリングとリアブレーキだけでこれほどの操作が可能なのだ。
曲がりにくいバイクを曲げるところにライディングの妙味がある。失敗すれば転倒してしまう。しかし、倒さなければバイクは曲がらないのだ。この矛盾の中でライダーは喘(あえ)ぐのである。
私の「運動化理論」の考え方で言うと、人間の身体というのは実は「魚類」なのだ。
【『究極の身体(からだ)』高岡英夫(講談社、2006年/講談社+α文庫、2009)】
高岡は自分の理論を証明するべく、あっという間にスキーを体得する。スキーやサーフィンには薬物中毒を思わせる快楽がある。愛好家の中にはわざわざ引っ越す者までいる。数日前に気づいたのだが、峠のライディングも魚の動きと似ている。するってえと、フランダンスにも同じような快感があるのかもしれない。体をくねらせる行為が魚類時代の記憶を呼び起こすのであろうか?(笑)