古本屋の殴り書き

書評と雑文

炭水化物抜きダイエットをすると死亡率が高まる/『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし

『臓器の急所 生活習慣と戦う60の健康法則』吉田たかよし

 ・炭水化物抜きダイエットをすると死亡率が高まる

『アメリカの名医が教える内臓脂肪が落ちる究極の食事 高脂質・低糖質食で、みるみる腹が凹む』マーク・ハイマン
『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー

炭水化物抜きダイエットの落とし穴

 確かに、摂取する炭水化物を減らすということには、私も含め、多くの医師が賛同しています。実際、炭水化物抜きダイエットの有効性を実証した研究も発表されています。
(中略)
 実は、炭水化物抜きダイエットについては、見過ごすことはできない心配な研究結果も次々に発表されているのです。
 ウプサラ大学(スウェーデン)のパー・シェーグレン博士らが2010年に発表した論文によれば、924人の男性を対象に10年間にわたって炭水化物抜きダイエットなどの食事法が健康状態に及ぼす影響を調べたところ、パンやパスタをほとんど食べないといったいきすぎた炭水化物抜きダイエットを行うと死亡率が19%も増加していたということです。とりわけ心筋梗塞で死亡する危険性は深刻で、なんと44%も増加していたと報告しています。
 一方、タフツ大学(米国)のホリー・テイラー博士らが2008年に発表した研究によれば、炭水化物を極端に制限した食事を続けるとわずか1週間で脳機能にダメージが及び、記憶力の低下を招いてしまうということです。さらに、ハーバード大学(米国)のフランク・フー博士らが2010年に発表した研究では、最大で癌が23%増えるという結果が得られています。また、ワシントン大学(米国・セントルイス)のルイージ・フォンタナ博士らが2006年に発表した研究では、とりわけ乳癌、前立腺癌、大腸癌の危険性が高まることがわかっています。このようにいきすぎた炭水化物抜きダイエットに健康を損なう可能性があるのは否定しようのない事実です。
(中略)
 従来は、タンパク質が15%、脂肪が25%、炭水化物が60%程度といったPFCバランスが理想的だとされてきました。実際、私自身も医学生のときは授業でそのように教わりました。また、厚生労働省が発表している日本人の食事摂取基準でも、タンパク質が9~20%、脂肪が20~25%、炭水化物が50~70%が目安だとされており、おおむね、従来通りの見解が踏襲されています。
 ところが、最近になって、実はもっと炭水化物を減らしてタンパク質を増やしたほうが健康の維持に望ましいという研究結果が次々と発表されてきました。特に中高年の場合は、炭水化物をとり過ぎると糖尿病になりやすく、現在のように食事が豊かになり摂取カロリーが増加している時代には、エネルギーの60%を炭水化物からとるという指針はそぐわないと指摘されているのです。
 たとえば、ミネソタ大学(米国)のメアリー・ギャノン博士らが2004年に発表した研究によれば、多くの現代人が炭水化物のとりすぎ(ママ)によってインスリンの過剰な分泌を招いており、その結果、糖尿病や動脈硬化を招いているということです。このため、研究グループは従来からのPFCバランスを見直し、炭水化物の割合を低くしタンパク質の割合を高めるよう提唱しています。このほか、米国を中心に炭水化物を制限することの利点を示す研究結果が相次いで報告されています。
 注目していただきたいのは、人類学の研究からも、炭水化物を減らしタンパク質を増やしたほうがよいのではないかという示唆が得られていることです。
 エモリー大学(米国)のボイド・イートン博士は、旧石器時代の遺跡の発掘を通して得られたデータを元に当時の食生活を推定し、それを現在でも狩猟や採取をして暮らしている少数民族の食生活に照らし合わせることで、旧石器時代のPFCバランスを求めました。それによれば、タンパク質が30%、脂肪が35%、炭水化物が35%で、やはり現在の食生活より炭水化物が大幅に低く、タンパク質は高いという結果でした。また、私たちホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカで誕生して以来、長い間、こうした高タンパク、低炭水化物の食生活を続けており、炭水化物を豊富にとるようになったのは、1万2000年前に人類が農耕を始めてから後にすぎないということも明らかになりました。一方、私たちの遺伝子は、20万年の間、ほとんど変わっておらず、医師免許も持つイートン博士は、私たちの健康を守るうえでも、高タンパク・低炭水化物だった祖先の食生活を見習うべきだと訴えています。
(中略)
 タンパク質のとりすぎも、人体に害を及ぼします。(中略)
 炭水化物は、基本的には炭素と水素と酸素だけでできています。このため、体内で燃焼させると、生み出される廃棄物は二酸化炭素と水のみです。どちらも人体に害はなく、エネルギー源としてとてもクリーンな燃料だといえます。
 これに対し、タンパク質の場合、これを構成しているアミノ酸には、炭素と水素と酸素の他に窒素が含まれているため、燃焼させると、前述のとおり窒素原子を含んだ毒性の高い廃棄物も生み出してしまうのです。そこで人体は、こうした廃棄物を肝臓で代謝し、窒素原子を毒性の低い尿素に作り変えています。これを腎臓で尿と一緒に捨てているわけですが、エネルギー源としてタンパク質を利用する割合が高まるほど、体内では廃棄物である窒素化合物の代謝のために肝臓と腎臓に余計に負担をかけることになります。その分だけ、どちらの臓器も老化を早めてしまうわけです。

【『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし講談社現代新書、2013年)】

 健康に関する情報は反論できるだけの知識がないと鵜呑みにしてしまいがちだ。例えば玄米食である。

「玄米のように、精製されていない『茶色い炭水化物』の多くは食物繊維や栄養成分を豊富に含み、複数の研究で肥満や動脈硬化のリスクをむしろ下げると報告されている」(津川友介 : カリフォルニア大学ロサンゼルス校〈UCLA〉准教授)。

 これは誤りだ。玄米の栄養成分を人体は消化できないからだ。しかも毒性が強い(あらゆる植物には毒性がある。植物は動けないため毒をもって外敵に対処するためだ)。玄米食を薦めることができるのは癌患者だけだ。既に何度か書いてきたが、玄米が有効であるならば白いご飯に糠(ぬか)をかけて食べればよいのだ。友野著『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』も読んだが、間違ったエビデンス信仰に陥っているように感じた。各種論文は一定の根拠にはなるが、それをそのまま証拠と信じ込んでしまう危うさが散見された。

 吉田たかよしに説得力があるのは最後の部分である。栄養素の分子構造と人体にかかる負荷の関係性を明らかにしている。

 ただし、旧石器時代のタンパク質が何であったかは書かれていない。肉と考えるのは早計だ。たぶん動物の骨髄だろう(『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る島泰三)。骨髄からは脂質も摂取できる。

 思考は概念に縛られる。様々な健康法やダイエット法、はたまた思想・哲学から宗教に至るまで世界は概念で満ち溢れている。思い込みによる行動は危険だ。カルト集団の集団自殺を思えばいい。

 文明とは自然から遠ざかる人類の営みである。近代化を通して我々は完全に自然と断絶した。そもそも大規模農業が自然に反している。それが現在はF1種(『タネが危ない』野口勲)や遺伝子組換え、大型農業機械の登場でほぼ工業化しつつある(工業型農業)。

 日本人が米食を始めたのは縄文時代後期の3000~2500年前と考えられているが、数千年単位でも人体が進化できない事実は重い。

 ジェームズ・C・スコット著『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』にかなり影響を受けてしまい、私は一時期米離れをした。しかし今になって考えてみると、奴(ジェームズ・C・スコット)は文章の巧みな社会主義者のような気がする。書籍の構成が権力闘争に彩られているためだ。他の著作も開いてみたが左翼臭がプンプンして、とても読めた代物ではなかった。