古本屋の殴り書き

書評と雑文

佐川幸義は宮本武蔵を超えた!?/『透明な力 不世出の武術家 佐川幸義』木村達雄

『雷電本紀』飯嶋和一
『日本の弓術』オイゲン・ヘリゲル
『鉄人を創る肥田式強健術』高木一行
・『肥田式強健術2 中心力を究める!』高木一行
『表の体育裏の体育 日本の近代化と古の伝承の間(はざま)に生まれた身体観・鍛錬法』甲野善紀
『武術の新・人間学 温故知新の身体論』甲野善紀
『惣角流浪』今野敏
『鬼の冠 武田惣角伝』津本陽
『会津の武田惣角 ヤマト流合気柔術三代記』池月映
・『合気の発見 会津秘伝 武田惣角の奇跡』池月映
・『合気の創始者武田惣角 会津が生んだ近代最強の武術家とその生涯』池月映
・『孤塁の名人 合気を極めた男・佐川幸義津本陽
『深淵の色は 佐川幸義伝』津本陽

 ・佐川幸義は宮本武蔵を超えた!?
 ・死ぬまで進化し続けた佐川幸義
 ・佐川幸義の合気

・『佐川幸義 神業の合気 力を超える奇跡の技法』『月刊秘伝』編集部編
『新版 合気修得への道 佐川幸義先生に就いた二十年』木村達雄
『剣豪夜話』津本陽
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也

悟りとは

津本「しかし僕は多くの武道家に会いましたが、やはり佐川先生に一番驚いたですね」
松田「それはそうでしょう。昔の剣豪だって佐川先生ほどの人はめったにいないと思いますよ」
津本「日本でも、昔の上泉伊勢守とか宮本武蔵とかは、そんな感じでしょうね」
松田「佐川先生より下だったと思いますよ。もちろん時代が時代だからまた違った面での力とかはあったかも知れないけど、佐川先生のような神技的なことができたとは思えませんね」(月刊「武術」6月号/松田隆智著「魂の芸術福昌堂、昭和63年12月25日発行に再録)

【『透明な力 不世出の武術家 佐川幸義』木村達雄〈きむら・たつお〉(講談社、1995年/文春文庫、2008年)】

 松田隆智〈まつだ・りゅうち〉は中国武術研究家で、尚且つ本格的に空手・剣術・柔術を修めており、「佐川道場では三元講習を許されている」(Wikipedia)。つまり、本物の武術家でもある。

 一方の津本陽〈つもと・よう〉は「剣道三段、抜刀道五段の腕前を持ち、武道への造詣が深く、剣豪だけの持つ高い境地や剣技の精密な描写をすることに長じる」作家だ(Wikipedia)。

 すなわち、ここで行われているのは単なる武術好きによる床屋談義ではないということだ。しかも両者ともに佐川が発する「透明な力」を実際に体験している。

 旧字の「佛」(ほとけ)は「人に非ず」の意である。そこには「人を超えた存在」という敬意が込められている。佐川幸義〈さがわ・ゆきよし〉は達人ではなかった。超人であった。

 動物の運動能力は人類よりもはるかに優れているが、そこに叡智(えいち)のきらめきはない。生まれた時点で強弱が決まった世界だ。こうした力の差を埋めることを可能にしたのが武術である。

 佐川のエピソードを知れば、人類の能力がまだまだ眠っていることに気づかされる。