・『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ
・『消されかけた男』ブライアン・フリーマントル
・『裏切りのノストラダムス』ジョン・ガードナー
・『女性情報部員ダビナ』イーヴリン・アンソニー
・『ワシントン・スキャンダル』イーヴリン・アンソニー
・『裏切りのコードネーム』イーヴリン・アンソニー
・『殺意のプログラム』イーヴリン・アンソニー
・『緋色の復讐』イーヴリン・アンソニー
レプキンは仕事に打ち込んだ。細部にまで神経が行き届くことが自慢で、とくに問題を感知する第六感に優れていた。ここ3回ほど、荒廃したウクライナに残る母を訪ねた際に、ハリコフの国家保安期間が汚職の巣になっていることを発見した。ぶくぶくと太り、やる気をなくした党員たちが、屍(しかばね)にたかるギンバエのように、スターリンの犠牲者に群がっていた。スターリンのために500万人が餓死、投獄あるいは追放によって命を失ったが、スターリンに代わって罰を下しに来た連中が仕事を終えて引き揚げると、残った行政官らは職務を忘れ、犠牲者を食い物にして懐(ふところ)を肥やしていた。
【『聖ウラジーミルの十字架』イーヴリン・アンソニー:食野雅子〈めしの・まさこ〉訳(新潮文庫、1996年/原書、1991年)以下同】
ウクライナが舞台の一部となっていて参考になる。これが1991年のヨーロッパにおける常識だと考えてよかろう。ウクライナがスターリン政権の犠牲になった歴史を私はウクライナ紛争後に初めて知った。ウクライナは東西で大きく文化が異なり、元々一国でまとまる情況ではなかったようだ。
スターリンの命令でウクライナの小作農は、1ヘクタールとか2ヘクタールの土地を耕していた農民まで一人残らず、プロレタリアートの敵《クラーク》つまり《富農》のレッテルを貼られて土地を追われた。農業集団化政策によって家畜も穀物も徴発され、反抗したウクライナ人は餓死するしかなかった。ロシアの穀倉地帯で、何百万というウクライナ人が飢えや病気で死に、町の側溝(そっこう)に、あるいは人々が食べ物を求めてさまよい歩いた道端に、死体が転がっていた。餓死を免(まぬか)れた人々も苛酷な強制労働によって命を落とした。
社会主義国には大量の国民を殺してきた歴史がある。ヒトラー、スターリン、毛沢東、ポルポトが代表格だ。4人で1億人以上殺戮(さつりく)したかもしれない。第二次世界大戦の敗戦国であるドイツのヒトラーが歴史上の悪を象徴するかのように扱われがちだが、実際はスターリンや毛沢東の犠牲になった人々の方が数は多い。
ボリスはドイツ軍に入ってしたことを、いろいろ話してくれた。SS(ナチス親衛隊)の絶滅部隊に入ってユダヤ人を殺したことが自慢だったが、「ボリシェビキの野郎とも戦った」とも言っていた。「連中は俺たちから土地を取り上げた。おかげでお袋と小さな弟は飢え死にした。世の中の悪いことはすべてボリシェビキとユダヤ人のせいだ。だから戦った」と。
何気なく書かれた一文だが現在のウクライナ紛争を思えば衝撃を受ける。歴史の陥穽(かんせい)には悪が詰まっている。
「いや、わたしは兵士だ。連中とは違う。やつらは人殺しだった。ユダヤ人を嫌悪した点では、ウクライナ人もドイツ人と同じだ。かなりのウクライナ人がSSに入った」
西側のウクライナ人が東側の新ロシアのウクライナ人を虐殺した可能性が高まる。そもそも紛争のかなり前からアメリカの政府高官がウクライナ軍を前にして戦意を煽る演説を繰り返してきた。アゾフ大隊をけしかけたのもアメリカなのだろう。
西側諸国は雪崩(なだれ)を打ってゼレンスキー大統領を英雄視したが、自分の一物でピアノ演奏をしていたようなお笑いタレントが短期間で一流の政治家になることは考えにくい。つまり、台本を書いている連中がいるのだろう。
安倍晋三元首相が暗殺され、トランプは大統領選挙の不正で一旦は退く羽目となった。現在、ナショナリストでまともな国家元首はプーチン大統領しか存在しない。
脱炭素社会に向けた舵取りや、新型コロナ騒動などを見てもわかるように、さしたる根拠もないまま世界の動向が独裁的に左右される時代となった。
不思議なタイミングではあるが、現在、世界的に反イスラエルの声が強くなりつつある。これは朗報だと思う。アメリカの政治を左右しているのもユダヤ勢力なので大きな潮流の変化と考えられる。今年行われる米大統領選挙もトランプ勝利が囁かれ始めた。