古本屋の殴り書き

書評と雑文

女性情報部員ダビナシリーズの完結篇/『殺意のプログラム』イーヴリン・アンソニー

・『寒い国から帰ってきたスパイジョン・ル・カレ
・『消されかけた男ブライアン・フリーマントル
『裏切りのノストラダムス』ジョン・ガードナー
『女性情報部員ダビナ』イーヴリン・アンソニー
『ワシントン・スキャンダル』イーヴリン・アンソニー
『裏切りのコードネーム』イーヴリン・アンソニー

 ・女性情報部員ダビナシリーズの完結篇

『緋色の復讐』イーヴリン・アンソニー
『聖ウラジーミルの十字架』イーヴリン・アンソニー

ミステリ&SF

「そうかもしれない。でもいつか、わたしがしたと同じことをしなければならないときが来る。そのときどうしますか? わたしを非難する前に、そのことを考えてみてください。わたしたちはみな同じです。あなたもわたしも、アメリカのラングレーの彼も。北京も東京も。みな同類ですよ。良心が痛むかもしれないが、もっと奥深いところでは、われわれはみんな、特殊な人間なのです。諜報機関で働く人間は皆そうだ。われわれは一般大衆とは違う。同じ振りをするつもりもない。あなたも、そんな振りはしないでください。
 もう一度言うが、お会いできてよかった。あなたがわたしを殺すことはない。わたしもあなたを傷つけない。しかしそれが最低限の保証です。誰にでも通用するものではありません」

【『殺意のプログラム』イーヴリン・アンソニー:食野雅子〈めしの・まさこ〉(新潮文庫、1993年)以下同】

 ダビナは美人ではない。頑固なところもある。更に赤毛だ。個性が魅力につながる女性であるが、地味で消極的なのは妹が女優並みの美貌の持ち主であるためだ。

 野心のないダビナであったが、やがてホワイト准将の後釜となる。そして遂にロシアの宿敵ボリソフと対決する。

 スパイは所詮駒(こま)に過ぎない存在だ。いざ勝負の局面になれば飛車角の大駒だろうと切って捨てられる。しかもスパイは任務遂行のために全てを犠牲にしなくてはならない。たとえそれが自分の命であったとしても。

「では失礼します。お気をつけて」
 握手はしなかった。
「失礼します」とダビナも言った。ボリソフに見送られ、ダビナは先に部屋を出た。

 このリアリズムが全篇を貫いている。4部作のどこにも隙(すき)がない。しかも文章がよい。

 日本のミステリ界もそれなりに賑わっているが、欧米作品のしっかりとした構成や、登場人物の多彩さにおいてまだまだ敵わない。