古本屋の殴り書き

書評と雑文

サイコパスという鏡に映ったトップクライマー/『ソロ 単独登攀者 山野井泰史』丸山直樹

 ・サイコパスという鏡に映ったトップクライマー

『凍(とう)』沢木耕太郎
『銀河を渡る』沢木耕太郎
『ポーカー・フェース』沢木耕太郎
・『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻NHK取材班
・『垂直の記憶山野井泰史
・『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由山野井泰史
・『いのち五分五分』山野井孝有
世界最強ソロクライマー"山野井泰史"50年の軌跡 伝説のクライミンング人生を世界一詳しく解説!!【ゆっくり解説】
『アート・オブ・フリーダム 稀代のクライマー、ヴォイテク・クルティカの登攀と人生』ベルナデット・マクドナルド

「こんなふうに書かれたら、私だったら耐えられない」
 遠藤由加は、そう語ったという。遠藤は、山野井夫妻とは親友関係にある女性トップ・クライマーで、「由加ちゃんがそう言っていた」と、のちに山野井の妻の妙子から聞かされた。また山野井によれば、彼の山仲間である友人のひとりは「これを書いた人間は、山野井が嫌いなんだろう」とも語ったという。
 無理もない。私はたしかに真意をひそめて、山野井に「いい気になるな」と書いた。たとえ真意は伝わらなくても、それで腹を立てるような男なら「わざわざ書くに値しない」と思って書いた。だれだって、命懸けの挑戦の失敗を「ぶざまだった」などと書かれた日には……、もしこの私が山野井の立場だったなら、その場で雑誌を破り捨てたことだろう。
 だが山野井は、記事を否定しようとはしなかった。それどころかのちに両親から「こんなことを書かれていいのか」と尋ねられても、「事実だからしょうがない」と答えている。内心は憮然としながらも、自分の吐いた言葉に責任をもった。

【『ソロ 単独登攀者 山野井泰史』丸山直樹〈まるやま・なおき〉(山と渓谷社、1998年/ヤマケイ文庫、2012年)】

 マカルー西壁に失敗した山野井を書いた記事である。山野井周辺にいる人々が否定的な感想を抱いたとすれば、何らかの傷を負ったと考えることができよう。つまり、大リーグに挑戦した野茂英雄を悪しざまに叩きまくったスポーツ新聞と似た内容だったのだろう。それを著者は正当化する。「書くに値する」人間ならば、何を書かれようが受け入れよ、という不遜さが全開だ。

 これだけではない。幼少期に著者が昆虫をいたぶるように殺したことや、山野井に同行した際の身勝手な気持ちから、明らかなサイコパス――あるいはソシオパス(反社会性人格障害)――であることがわかる。善悪の概念が欠落しているため、書いていいことと悪いことの判断ができないのだ。

 amazonでは65個の評価で★四つとなっているが、こんな本を評価するような人々は、日常で容易にハラスメントの被害者になり得るだろう。

 売文屋風情が一流のトップクライマーを小馬鹿にするとは片腹痛い。せめて、ダニはダニらしくしたらどうなんだ?