・アルツハイマーは文明病
・おばあさん仮説
・『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン
・『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン
・『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
・『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
・『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
・『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
・『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
・『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
・『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
・『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
・『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
・『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
・『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
・『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン
・『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
・『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス
・『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー
・『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
・『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
チンパンジーのメスは死ぬまで子どもを生めるのだが、閉経後すぐに死ぬので「おばあちゃん役」は絶対にできない。逆に人間の場合、母親役から解放されたおばあちゃんは、実の娘の日々の仕事や孫の教育に協力することが――経験を頼りにされて――できる。ここに重要な研究結果がある。カナダの出生登録簿とフィンランドの教会区の登録簿を元にしたもので、それによると少なくとも20世紀初頭まで、家族に祖母がいることで孫の数が増えるだけでなく、乳幼児の死も減っていたのである。祖母が若くして亡くなった家庭と比べると、閉経後の祖母がいる家庭では、10年間ごとに平均して二人の孫が成人に達していた。
この仮説に立つと、人間の長寿は女性のおかげと言い切ることもできる。事実、娘を持つ母親だけが100パーセント確実に、子と孫を通してその遺伝子を永続させることができる。なぜなら、子どもを生んだのは彼女だから。いっぽう父親側には確たる証拠がなく、男性は(DNA検査をせずに)子どもが本当に自分の子なのかは確認できない。したがって、社会生物学的な研究から、人間の長寿遺伝子の淘汰は母方の祖母を介して確立されたことになる。
祖母が長寿だと実際、その間に受け継がれる全遺伝形質の数は多くなる。こうして、もしゲノムに「長寿」の情報が組み入れられていれば、その情報もまた受け継がれることが多くなる。それでも、「長寿」の基準をクリアするには、高齢になっても健康であることに加え、それ相応の知能も遺伝子にプログラミングされ、受け継がれているときだけである。
知能が高い海の哺乳類の最近の研究でも、孫の数はおばあさんの体力的な貢献だけでなく、知能による貢献によっても決まることが明らかになった。シャチではおばあさんシャチが90歳まで達することがあり、その場合は閉経後、約40年間も長生きすることになる。そして、おばあさんシャチは餌探しで家族を助け、とくに魚が少ないときは子孫のために餌探しのチャンスを約10倍にすることが確認された。イギリスのエクセター大学の人類学者ローレン・ブレントと同僚が確認したのは、食糧危機のときにシャチの仲間を導いたのは、繁殖年齢を越えた最高齢のメスだった。サケの個体群が現象した年は(サケはシャチの大好物)、おばあさんのいない群れでは死ぬシャチがほかより多く、生まれるシャチも少なかった。ローレン・ブレントは研究での発見と「おばあさん仮説」を結びつけ、次のように延べている。「【閉経後のメスは、環境について得た知識を家族と共有して、群れが生き残るのを助ける】ということです」。自然淘汰を司る生物学的なメカニズムは人間も同じ。こうして、この研究結果は私たちに、閉経後の女性が長生きするもっともな説明を与えてくれるのである。【『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス:鳥取絹子〈とっとり・きぬこ〉訳(筑摩書房、2018年)】
おばあさん仮説はよく知られていると思うが、Wikipediaを見たところ賛否両論で確定していない模様である。ま、進化的な根拠は後出しジャンケンっぽいところがあるからね。
それでもヒトのメスが閉経後も長く生きることは間違いない。文明の進歩によって文化の受け渡しがテキストや動画で可能となった現在、淘汰圧がかかるとすれば女性は短命になるはずだ。ところがどっこい寿命は伸びる一方だ。孫の成長と相関関係があるとすれば、祖父母と離れた地域で暮らす孫に何らかの差異があると想定できる。
ひょっとしたら、おばあさんは魔法を使う可能性も考えられる。