古本屋の殴り書き

書評と雑文

中国共産党が恐れた男/『ジャック・マー アリババの経営哲学』張燕

『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ

 ・中国共産党が恐れた男

『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
ナヴァル・ラヴィカント「幸福の選択とは何なのか」
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽
『お金の不安と恐れから自由になる! 人生が100%変わるパラダイムシフト』由佐美加子

 馬雲の言葉はわれわれに多くの気づきをもたらす。馬雲の人生には、われわれがじっくり味わい、考えるべきものが詰まっている。馬雲は、自分が範を垂れ、人を教育しようとは思っていない。
「アリババはいかにして成功をつかんだか、アリババの特長はどこか、ということを書いた本がたくさん出ています。でも、私は読んだことがありません。私は、いつかこんな本を書きたいと思っています。内容は『アリババの1001の失敗』です。私たちは多くの過ちを犯してきました。これは起業家やこれから起業する人が研究に値するでしょう」

 中国中央電視台の人気番組『富在中国(win in China)』のプロデューサー王利■(草冠+分)は、馬雲についてこのように語っている。
「馬雲には、普通の人には絶対に及びもつかない点が一つある。それは、まったく虚栄心を持っていない、という点だ。彼は中国人がこだわるメンツにこだわらないし、パッとしなかった過去についても隠さない。自分の顔さえも笑いのタネにできる。彼はどんな場所にいても彼自身だ。自分の足りないところも、優れたところも表現してはばからない。誰も彼をぐらつかせることはできないし、彼の自信を打ち砕き、自らを否定させることもできない」

【『ジャック・マー アリババの経営哲学』張燕〈チョウ・エン〉編著:永井麻生子〈ながい・あいこ〉訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014年/2019年、ディスカヴァー携書)以下同】

 さすが中国共産党が恐れた男だけのことはある。2020年、ジャック・マーは公の場で昂然と政府批判を行った。彼はその後1年ほど表舞台から姿を消した。中国で政府批判をすればただで済むわけがない。2022年からは東京に移住した(Wikipedia)。

「虚栄心を持っていない」点では、成田悠輔〈なりた・ゆうすけ〉や佐藤航陽〈さとう・かつあき〉も似ている。彼らも「有名」に価値を置いていない。むしろ、「どうでもいいこと」と吐き捨てるように言ってのける。見つめている場所が凡人とは違うのだろう。

 男の度量は屈辱の量で決まる。味わった屈辱が多いほど度量は大きくなるものだ。
 失敗を重ねても、死にさえしなければ再び立ち上がれる。
 目の前の苦境などたいした問題ではない。
 重要なのは理想を胸におのれの未来を見据え、プラス思考で自分を成長させることなのだ。――馬雲

 中国共産党からの迫害に耐えて、鴻鵠の志は更なる高みを目指しているのだろうか? あるいは家族や友人の生殺与奪を握られ、雌伏するのだろうか? 個人的には時代がジャック・マーを離すことはないだろうと考えている。

 起業では、いちばんやりやすく、いちばん好きなことをやるべきだ。
 起業は、金を稼ぐ手だてではなく楽しみの一種だ。
 好きなことなら文句を言う必要はないだろう。――馬雲

 ナヴァル・ラヴィカントと全く同じ指摘である。

馬雲●また、【2:7:1というのがわが社のやりかたです。優秀な社員が2割、普通の社員が7割、毎年辞めていく社員が1割】、というものです。

 組織の構成で悩む経営者は多いが一つの参考になるだろう。全体を均(なら)してしまうと組織のダイナミズムが失われる。スポーツのチーム編成と似た視点で考えるのがよい。全員がピッチャーである必要はない。

 反中感情を抱く日本人は多い。もちろん故なきことではない。それでもジャック・マーの生きざまから学ぶことは多い。