・無駄な長さに付き合い切れず
・『天使と嘘』マイケル・ロボサム
・『天使の傷』マイケル・ロボサム
その生き物は目覚め、眠り、あたしの中でうごめき、囁き、日記に蜘蛛(くも)の脚のような字を綴(つづ)り、自分の感情を記そうとするあたしの無益な試みを笑った。
おまえがなにを考えようとだれも気にしない。
ミスター・ポーラーは気にする。
彼はおまえを愛していない。おまえが太ってきたと思っている。
違う。
だから彼は、おまえの腰の上の肉をつまむんだ。おまえにうんざりしているんだ。
彼はあたしを愛している。
彼はおまえにキスをしない。おまえにプレゼントをしない。おまえを戸別訪問に連れていかない。
あたしは15歳になった。誕生日のお祝いはなかった。母さんに最後の生理はいつかと訊かれた。妊娠していることを慰謝が確認すると、母さんは息を呑んだ。義理の父は父親の名前を知りたがった。あたしは首を振った。【『誠実な嘘』マイケル・ロボサム:田辺千幸〈たなべ・ちゆき〉訳(二見文庫、2021年)】
750ページを超える大冊である。はっきり言おう。長すぎる。文章を書くことに酔い痴れているような印象すら受けた。「中盤からノンストップ」というamazonレビューに騙された。700ページ近くで読むのをやめた。
ただし、サイラス・ヘイヴンが登場するので、『天使の――』につながっている可能性がある。
『グッド・ドーター』で散々腐した田辺千幸だが、本書の訳文では特におかしなところは感じなかった。
統合失調症系サイコパスの心理が巧みに描かれている。しかも、アガサはストーカーでもある。こうした人物造形に厚みを持たせるべく、ロボサムはアガサが思春期に受けた性的虐待とエホバの証人の反社会的コミュニティを一種の動力としている。
・『カルト脱出記 エホバの証人元信者が語る25年間の記録』佐藤典雅
特定の教団名を利用するのはちょっと危うい。どんなに説得力があったとしても安易の誹(そし)りを免れない。
読み終えることができなかった理由はもう一つある。登場人物がクズだらけなのだ。あと、ロボサムはオーストラリアの作家なんだが、舞台の地域性(イギリスか?)が判然とせず、しっくりこない。髪型が同じなのに表紙の絵が内容と異なっているのも問題だ。