古本屋の殴り書き

書評と雑文

ありのままの川の姿/『川と人類の文明史』 ローレンス・C・スミス

川はどこにあるのか?
川の長さは直線距離×3.14
湯殿川を眺める
『地形で解く すごい日本列島』おもしろ地理学会編
蛇行しているのが川本来の姿/『武術を語る 身体を通しての「学び」の原点』甲野善紀

 ・ありのままの川の姿

・『砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか』ヴィンス・バイザー

 遅くとも40億年前には、原始の空から雨が降っていた。(中略)
 雨は少しずつ高地を崩し、低いところに溜まった。岩を砕き、鉱物を溶かす。山を削り、その残骸を低地へと押しやった。雨粒が出会い、集まり、その強さを増した。合流を何度も繰り返し、数えきれないほどの雨粒が合わさって、大きな力となる。こうして、川が誕生した。
 川にはひとつの役割があった。すべてを下流へと運ぶことだ。下へ、下へ。そして海へ。(中略)
 山々は頑丈だが、もっとも力強い頂きですら、この休むことのない敵の前には陥落するしかない。水の循環は、あらゆるものに打ち勝つのだ。

【『川と人類の文明史』 ローレンス・C・スミス:藤崎百合〈ふじさき・ゆり〉訳(草思社、2023年/原書、2020年)以下同】

 Erich Lessingオーストリア)のカバー写真が実にいい。公式サイトで探してみたのだが見つからなかった。是非ともポスターにして欲しいものだ。グラデーションを描く暗い緑色と左下の光の加減に魅了される。

 川の働きで最も重要なのは山間部の養分を海に運ぶことである。プランクトンが増えれば昆虫や川魚の種類も増える。それらの死骸も含んだ水が海を豊かにする。ダムや護岸工事は川の「砂漠化」に他ならない。

 現在、川は、その積み荷を海まで運ぶのに苦戦している。ガチガチに固められた都市部を通り、ダムに阻まれ、工学者により管理され、ほとんどの人からは顧みられることもない。それでも、最後に勝つのは川なのだ。人間がいなくなっても川は存在し続けるのだから。
 だが人間はといえば、川がなくては生き延びられない。

 人間が川を利用する方法は土地によってことなり、また時代とともに変化してきた。しかし、人間にとって川が重要であることに変わりはない。川から人間が得られる基本的な利益には5種類ある。アクセス、自然資本、テリトリー、健康な暮らし、力を及ぼす手段である。これらの利益の現れ方は変化してきた。しかし、これらの利益に対する人間の根本的なニーズは変わっていない。

 龍は水神である。すなわち「暴れる川の姿」を仮託したとも考えられよう。しかしながら、川の氾濫こそが平野を形成し、土地を肥沃にしてきたのだ。目先の損を恐れて長期的な利益を見失ったところに治水政策の過ちがある。

 詳細は知らぬが日本の水利権は複雑怪奇な様相を呈しており政治や行政も手をつけられないという。

 ありのままの川の姿を見てみたい。そんな望みを捨てることができない。