古本屋の殴り書き

書評と雑文

森のサイン/『森のように生きる 森に身をゆだね、感じる力を取り戻す』山田博

 ・森のサイン

・『植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち』ダニエル・チャモヴィッツ
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』ペーター・ヴォールレーベン
『宮脇昭、果てなき闘い 魂の森を行け』一志治夫

 森では頂点にいる何者かがコントロールしているわけではなく、それぞれの命がそれぞれのペースで動き、それなのに全体がうまく連携し合って、森という命が続いているように見えるのです。
 今まで私がビジネスの世界で知っていた、計画しコントロールすることで結果を出す、というやり方とはまったく違う世界がそこにはありませいた。たぶん心のどこかで、今までのやり方に限界を感じていたのでしょう。
 私は、森の魅力にどんどん惹き込まれていきました。森に身をゆだねていると、ふとした瞬間に自分の心にふれる何かに出会います。小さな葉っぱ、緑に輝く苔、木漏れ日の模様、風の渡る音、雨のしずく……。
 心が捉えるのはそのときで、いつも違います。それは、そのときの自分でしか出会えない、その場所だけの“【サイン】”です。サインの中には、そのタイミングで自分に必要なメッセージが入っています。でも、すくにはその意味がわからないことのほうが多いのです。
 まるで、メッセージ入りの宝箱のようなものです。
 私は、実に多くのサインを森から受け取り、そのメッセージが紐解かれるたびに、それに従って行動してみました。


【『森のように生きる 森に身をゆだね、感じる力を取り戻す』山田博〈やまだ・ひろし〉(ナチュラルスピリット、2018年)】

 山田は「株式会社森へ」の創業者である。法人名からもわかるように変わったセンスの持ち主だ。文章も、なよっとしていて好きではない。どこか少女趣味的なところがあって、大人には受け入れ難い美意識が各所に見受けられる。

 企業の中堅幹部を対象にした研修を行っており、これを「リトリート」と称している。おお、やだやだ。森の中で3日間ほど過ごすだけで10万円前後も取るのだから上手い商売だ。しかも会社のカネを使える。

 何から何まで惜しい本である。狙いはいいのだが、業(ぎょう)として行う難しさがある。

 日本は山林は多いのだが意外なほど森が少ない。一昔前だと里山が各所にあったがとっくに廃れてしまった。都会と自然の境界に位置するのが森である。山菜を採りにゆくような生活スタイルが増えるといい。