古本屋の殴り書き

書評と雑文

非運動性活動熱産生(NEAT)を増やす/『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン

『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし

 ・生命体に指揮者はいない
 ・視覚情報は“解釈”される
 ・2枚の騙し絵
 ・非運動性活動熱産生(NEAT)を増やす
 ・ホルモンの多様な機能
 ・免疫系の役割
 ・アルツハイマー病の原因は不明
 ・睡眠中の覚醒と覚醒中の睡眠

必読書リスト その三

 わたしたちは最低でも――本当に最低レベルだが――起き上がってもう少し動き回るべきだ。ある研究によれば、筋金入りのカウチポテト族(1日6時間以上座っている人と定義される)になると、男性では20パーセント近く、女性ではそのほぼ2倍、死亡の危険性が高まるという(なぜ女性が座りすぎると男性よりはるかに危険なのかは不明)。長時間座っている人は、糖尿病に2倍かかりやすく、致死的な心臓発作を2倍起こしやすく、心血管疾患に2.5倍かかりやすい。驚くべきことに、そして憂慮すべきことに、残りの時間どれほど運動しても関係ないらしい。あなたがその魅惑的な大臀筋のクッションに身を預けて夜を過ごせば、日中活発に動いて得た利益が帳消しになってしまうかもしれない。ジャーナリストのジェームズ・ハンブリンが《アトランティック》誌に書いたところによれば、「座っていた時間は取り消せない」。実際、座業や座りがちなライフスタイルの人――つまりわたしたちのほとんど――は、1日14~15時間も平気で座り、不健康にも、体のほんの一部以外まったく動かさないこともめずらしくない。
 メイヨークリニックおよびアリゾナ州立大学の肥満の専門家、ジェームズ・レヴァインは、正常な日常生活で消費するエネルギーを表わす非運動性活動熱産生(NEAT)という用語をつくった。実はヒトは、存在しているだけでかなりの量のカロリーを消費する。心臓、脳、腎臓がそれぞれ1日に約400キロカロリー、肝臓が約200キロカロリー、食物を食べて消化する過程だけで、体の1日のエネルギーの必要量の約10分の1を占める。しかし、椅子からお知りを上げる気になれば、はるかにたくさんのカロリーを消費できる。ただ立っているだけでも、1時間に107キロカロリー余分に燃焼する。歩き回れば180キロカロリーだ。ある研究で、被験者たちはいつもどおり夜じゅうずっとテレビを見ていいが、コマーシャルの時間は毎回立ち上がって部屋を歩き回るように指示された。それだけで、1時間に65キロカロリー、ひと晩で約240キロカロリーを燃焼した。
 レヴァインの発見によれつお、痩せている人たちは太っている人たちより1日に2時間半多く立って過ごす傾向があった。意識的に運動するのではなく、ただ動き回っていて、それが脂肪の蓄積を防いでいた。その一方、別の研究では、日本とノルウェーの人々はアメリカ人と同じくらい不活発だが、肥満率は半分にすぎず、運動は痩せる要因の一部でしかないらしいことが示された。
 それはともかく、余分な体重を少しだけ増やすのは、そんなに悪いことではないかもしれないという研究結果もある。数年前、《ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション》は、特に中年以降、少し過体重気味の人のほうが、痩せている人や肥満の人より重病にかかったときの生存率が高いと報告して、物議を醸した。この説は肥満パラドックスとして知られるようになり、多くの科学者のあいだで激しい議論になっている。ハーヴァード大学の研究者ウォルター・ウィレットはそれを、「読むだけ無駄の、ごみの山」と呼んだ。
 運動が健康にいいのは間違いないが、どのくらいが適切なのかははっきりしない。デンマークで18000人のランナーを調査した結果、定期的にジョギングする人は、ジョギングしない人より平均で5~6年長生きすることが予測できた。しかし、それはジョギングが本当に体にいいからなの、あそれともジョギングをする人がどちらにしても健康で節度のある生活を送っていて、スエットパンツ(ママ)をはこうがはくまいが、怠惰なタイプのわたしたちより良好な結果を出すのが当然だからなのか?
 確かなのは、あと数十年もすれば、あなたは永遠に目を閉じて、すっかり動きを止めてしまうことだ。だからできるうちに、健康と喜びのため、動けることのすばらしさを満喫するのも悪くないかもしれない。

【『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン:桐谷知未〈きりや・ともみ〉訳(新潮社、2021年新潮文庫、2024年)】

「非運動性活動熱産生:Non-Exercise Activity Thermogenesis」。日本語だと「非運動性熱産生」という表記の方が多い。

 やはり、「スタンディングデスクの復活」は正解だった。左足下部がむくむというオマケがついたが今朝治った。

「座りすぎが女性によくない」のは、家事や育児を行う設定があるような気がする。台所での立ち仕事が女性の寿命を男性よりも長くしているという説もある。男女の体では脂肪の付き方も異なる。「おばあさん仮説」も私の説を補強しているように思われる。

 非運動性活動熱産生(NEAT)を「重力への抵抗」と考えればわかりやすいだろう。最近になって気づいたのだが、優れた武術家は明らかに重力を味方につけている。筋力ではなく体の重さを活かしているのだ。重力に完敗した暁に我々は「土に還(かえ)る」のだろう。

 運動が微妙なのは活性酸素が増えてしまうためだ。一流のマラソンランナーは平均寿命より5~6年ほど短命である。ジョギングの開発者はジョギング中に死亡している。また、加齢に伴い方向転換を伴う激しい運動は肉離れを起こしやすい。

 そう考えると高齢期に相応(ふさわ)しいのは、ヨガ・体操・ウォーキングの3点セットであろう。筋肉よりも呼吸に負荷をかけないところがミソなのかもしれない。我々の遠い先祖を想えば激しい呼吸は何かから逃げた時が連想されるような気もする。

 誰かに言われたわけでもなく自然にスキップをする児童の動きが望ましい。幼い子供はじっとしていることがない。それゆえに目が話せないわけだが(笑)。